第13話 溢れた涙
陸斗の誕生日パーティーは、何をやったのか全く覚えていない。
ただ頭の中はあのプレゼントのことでいっぱいで、ケーキを飾りつけても、陸斗の大好物のグラタンを作っていても、ただいまと言ったと同時に驚いた顔を見せた陸斗の顔を見ても、珍しく家に帰ってきたお父さんが僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でても、とにかく、あのプレゼントは今どこにあるんだ、と、そればかり考えていた。
「……なんか想がおかしい」
食後、陸斗がそう言って心配そうに僕を覗きこむ。熱でもあるのかとおでこに手をあてたり、目の前で手を振ってみたり。どうやら僕は隠し事なんてものが出来ないらしい。僕は自分がもっと冷静な人間だと勘違いしていた。
「そう? いつもと一緒よねえ、想くん」
「……、え、なにがですか?」
「もう、想くんたら」
「ごめんなさい」
ごめんなさい、陸斗。そう口をついて出そうになって、飲み込む。せっかくの陸斗の誕生日なのに、陸斗の生まれた日なのに、こんなふうでごめんなさい。笑って、お祝いしないとダメなのに。
「ねえねえねえ!! 何があった!? なんで想泣いてんの!?」
「あらあら、もうねえ、仕方ないわねえ」
「ごめんなさい陸斗ぉ」
「いいよ、なんかよくわかんないけど、いいから! もういいから! な?」
泣いたのは、母が亡くなったと知らされたとき以来だった。病院のベッドで目を覚ましたときにはもう母はお墓の中だった。あの日僕は一生分の涙を流したと思っていたけれど、人間ってすごい、まだ泣けるんだ、なんて、どこかで冷静に考えていた。
僕の目の前で眉を下げに下げて困り果てる陸斗と、今日あったことを回りくどく順を追って説明する涼子さんと、僕たちの様子にどうしていいのかわからずただ困り果てる父と。
皆が何だか同じ空気に包まれている気がして、大泣きしながら、どこかで何だか嬉しかったんだ。
「よしよし。もう泣くな。明日学校終わったら一緒に探すから。な?」
お風呂から上がって、いつものように僕の髪を乾かす陸斗にもたれ掛かる。まだぐずぐずと泣いている僕に陸斗は優しく声を掛けた。
「探すったってもう、きっと、ないよ」
「そんなのわかんねえだろ? な、どんな入れ物に入ってた?」
陸斗はドライヤーのスイッチを切っていい香りのするスプレーをかける。ぐしゃぐしゃと僕の髪を撫でながら僕を覗き込んだ。
「確か薄いブルーの、このくらいの紙袋で、中に小さな箱が入ってて」
「店の名前は?」
「……確か、Blue moonって書いてた気がする。小さいセレクトショップだよ。色んなブランドのアクセサリーが売ってて。それで、シルバーの、すごく陸斗に似合いそうな、ピックみたいな」
ギターのピックを象ったそれには、小さな青い石が埋め込んであった。他に赤や緑もあったけれど、陸斗に似合うのは青だと思ったんだ。
「そっか、そっか。想が選んでくれたの」
「うん……。絶対陸斗に似合うと思ったんだけど、失くしちゃった……」
今頃誰かに拾われて、持っていかれちゃってたりするんだろうか。誰かの手に渡って、他の誰かが首に提げて。
「うー……、悔しい」
「あああもう、泣くなって。俺、すげえ今嬉しいから」
「嬉しい?」
「想が俺のこと考えて選んでくれたんだろ? その気持がめちゃくちゃ嬉しい」
陸斗は、うん、と頷きながら、ドライヤーやスプレーなんかをいつもの籠に戻した。陸斗の髪はまだ濡れている。いつもなら僕の髪を乾かした続きで自分の髪もやっちゃうのに。
「僕、陸斗の髪乾かす」
「え、なに、いいって」
「いいから。ほら、座って」
「しゃあねえな。じゃー、優しくしてねっ、ハァト」
「ばかじゃないの」
ドライヤーのスイッチを入れると、静かなファンの音が辺りに響く。テレビもなにもついていないから、まるでこの世界にふたりだけになったような気分になる。時々家のすぐ前の道を通り過ぎる車の音も、今は聞こえない。
「陸斗って」
「んー? なにー?」
陸斗って、どうして僕の兄なんだろう。半分とはいえ血がつながっていて、どうしてこんなふうに出会ったんだろう。もし僕の母が死ななくても、僕たちは他のかたちで出会ったんだろうか。もし、運命というものが本当にあるなら。
「……頭絶壁なんだね」
「うっせ、ほっとけ!」




