怪談・弐
これは幼いころに母から聞かされた話。
母の実家は築100年を目前にした、実に古い建物だった。
改築や増築を重ね、時代とニーズに合わせてきた歴史がある。
母は若い頃、母屋ではなく離れの部屋で暮らしていた。
そこはかつて祖父、つまりわたしにとって曾祖父にあたる人が暮らし、亡くなった部屋だという。
長らく物置部屋だったところを、母が片づけ自分の部屋にしたという流れだ。
母はこの部屋で寝ていると時折金縛りに遭ったという。
しかし、さすが戦後育ちといったところか。肝が太いのだ。
「金縛りなんて、何とも思わなかったけどねぇ」
そんな母が唯一、仰天した出来事があった。
同じように離れの自室で寝ていると、ふと頭に違和感を覚えたのだ。
おそるおそる左手で頭の上を探ると、冷たいものに触れた。
勇気を出し、もう少し触ってみると、どうやら人の腕のようだったという。
想像を絶する恐怖に押し潰されそうになりつつも、悲鳴ひとつ上げず観察を続ける。
わかった。これは……。
それはセルフ腕枕で血流が止まり、神経もマヒして冷たくなった自分の右腕だったと。
(実話シリーズ『怪談・弐』 おわり)