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復讐の勇者  作者: 鯛茶漬けうまし
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2話

ノアキスが囮になったことにより原住民たちは、獲物を仕留めることがでた。

そして傷の手当てをしてくれるということになり村へと案内された。

暫くすると一人の原住民の男が絶壁の前で足を止めた。

「どうしたんだ?」

「ここから降りる」

「ここから? ここは崖だぞ?」

すると小さな気球が崖の下から現れた。

「な、何だこれは?」

「いいから乗れ」

男は気球に乗り込むとノアキスを招き入れた」

気球に乗り込むとゆっくりと下へ降り始めた。

そこは岩の切れ間の谷を住みかとしている村であった。

「こ、こんな村が存在していたのか?」とノアキスは目を見開いた。

「オレたちは、精霊の部族という」

「精霊の部族?」

「ああ。我々は精霊と共に生きている」


 男は指から小さい火を放ち、気球を操縦している。

気球から見える光景は驚きの連続であった。

高い壁のような岩場に幾つもの洞穴があり、そこに居住スペースが作られてある。

部族の者たちは、風車を使い谷から水を汲み上げ、果物が付いている木に水を与えている。

ブタや鳥などの家畜まで育てている。

女子供は炊事に、魔法を使い火を興している。

「オレの名はマジャ。この村の戦士だ」

マジャは戦士ということもあり、背が高く鍛え上げられた肉体をしていた。

「オレの名はノアキス。流れ者だ。それとここの者たちは皆、魔法が使えるのか?」

「ああ。僅かだが、小さな魔法が使える」

「こいつは驚いた。よく見ると色んな所で魔法を使っているじゃないか」

「気球の火も、水を汲み上げる風車の風も魔法だ」

「もしや、さっきの狩りも魔法を使っていたのか?」

「そうだ」

「一体どうやって?」

「岩を掘るとき、岩を柔らかくする魔法を使う。その魔法を矢に宿し獲物に放つ。そしておまえがいた所は、あらかじめ油を撒いておいた。そこに火の点いた矢を放ち、風を興し火を大きくした」

「そういうことだったのか。そんな魔法の使い方があったとは…」

「ここを住みかにするときも、その岩を柔らかくする魔法を使って掘った」

「なるほどな。今までオレは、敵を攻撃をするために、魔法で武器を硬質化させることばかり考えていた。発想の転換か」

「魔力が強ければそれでいいが、オレたちの魔力は弱い。弱いのならば、工夫をして生きていかなければならない」

部族の生き方とその知恵に、ノアキスは驚きと高い関心を示していた。

女たちはナイフに魔法を籠め、猪の魔獣が、最初から柔らかかったかのように捌いていく。

大きな魔獣をあっという間に解体し、焼いたり、煮たり干し肉にした。

珍しい客人である片目の薄気味悪い男に子供たちは怯えているようであった。

果物を手にしたノアキスは、鮮やかなナイフ裁きを披露していく。

それに興奮した子供たちがはしゃぎ出しいつの間にか、ノアキスは受け入れられるようになっていた。


 その夜、火を囲み食事をしていると部族の酋長が現れた。

「おぬしがノアキスという流れ者か?」

「ああ、そうだ」

真っ白な髪と深い皺がこれまでの人生を物語っているように思えた。

「傷が癒えるまでここに居るといい」

「すまない。なるべく早くここを出て行くつもりだ」

「ほう、おぬしは大きな闇を抱えているようじゃな」と酋長の目付きが変わった。

「何かが見えるのか?」

「いや、精霊たちが教えてくれている」

「精霊?」

「そうじゃ。わしらは精霊と共に生きておる。この大地は全てに精霊が宿っておる。人もいずれ精霊に還る。受け入れることじゃ」

「受け入れる…」

「人は皆、ありのままを受け入れぬことが出来ず苦しむ。苦しみから逃れようとしたり、逆らおうとすれば困難となる」

ゆらゆらと燃える焚き火からパチパチと音がした。

「大地と水が繋がっているように、森には動物や虫がいる。空には星があるように、そこにあるものを全てを受け入れればよい。そうすれば、おのずと答えが見え、前に進むことができる。お主もありのままを受け入れればよい」

煙が暗い夜空へ登り、星空に溶け込むのをノナキスは見つめていた。


 三日目の朝、村を発つ際にマジャが見送りに来た。

「世話になった。この恩は忘れない」

「気にするな。おまえが来てくれたことにより、沈んでいた村に新しい風が吹いたように思えた」

「沈んでいた?」

「ああ。オレたちは本来、あの山の麓にある西の森に住んでいた」

マジャの指先に目を向けた。

「そうだったのか。しかしなぜ、あんな岩壁のような所に住むようになったんだ?」

「突然オレたちの森にヒヒの魔獣の群れが現れた。オレたちを食うために襲い始めた。何度も戦ったが、ヤツらの数が多くて勝てなかった。沢山の仲間が食われた。仕方なくここへ逃げて来た」

「それで魔獣から身を守るために、あんな岩場で住むようになったのか」

「どうすることも出来なかった。だから受け入れるしかない…」

マジャが顔をしかめ拳を握りしめた。

酋長の言葉を思い出し胸の奥が痛んだ。

部族の者たちも自分と同じように、苦しんでいたということを知ったからだ。

そしてノアキスは村を後にした。

しかし暫くすると山の麓にある西の森に足を向け歩き出していた。


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