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結成?ドラゴン調査隊・前編

「うまくいったわ!ドラゴン調査隊の発足よ!」

 議会に出席していたレウカがシトロンの元に戻ってきた。ガラクテアは疲れたようにふよふよと飛んで、彼女専用のソファーにダイブした。

 カレンシアは国王が政治の中心で頂点だ。貴族や大臣たちの意見は議会でまとめられ、それを参考にしたりしなかったりして、国王が一人で判断を下す。シトロンから見れば古臭い絶対王政だった。

 今までもレウカやその他魔法学者などが竜脈の調査を国に求めていたが、議会で通されたその計画や予算案その他を国王の一声で何度も無に帰したらしい。

 父のことは気にしていないように、レウカは嬉しそうに小さく跳ねている。


「城壁近くの一角を調査隊のため開放して、そこの館を一つ、私にくださったの!シトロン姫も館ならもっと自由に暮らせると思います。さっそく準備しましょう!」


 レウカ率いる調査隊の結成の報は大陸全土に広がった。すぐにユク大陸の国々から調査隊への参加表明が届けられた。そのどれもがレウカと年齢の近い姫や王子、または名のある大貴族たちである。

 シトロンは世界の安寧のためにドラゴンや龍脈の異常を調べたい、と言ったレウカの願いが軽んじられている気がした。だってこれはカレンシアへのすり寄りだろうし、未だ婚約者のいない大国の姫君を狙ったものだろうから。


 それから三日後、調査隊の拠点の準備が終わったと聞いた三人はこれから住むことになる館、黄昏館に向かった。十数名の使用人と王都の警備兵とともに馬車に乗る。

「王都内なのに馬車移動か」

「やんごとない妾には相応しいな」

「でもやっと一日中どっかからドラゴンが睨んできて、貴族達にひそひそ言われる城から脱出できたよ」

「ごめんなさい、居心地が悪かったでしょう。ドラゴンたちは何故か私にもイースにも理由は話してくれないの。結局誰にも会えなかったのよね?」


「実はカレンシアにドラゴンとかいないんじゃないかって疑うくらいには。でもガラちゃんに人望がなくてガン無視されてるってことみたいだし、気にしてないよ」

「わはははは不敬!!!!え!?ガラちゃんとな!?」

「おいガラちゃん、オレとレウカの愛の巣が見えてきたぞ」

「軽口がお好きね。その場合ガラクテア様はどういう」

「新婚さんが飼ってる拾ったペット」

「せめて血統書付きにせんかい!!!!」

 わいわい騒いで館に到着した三人。これからは議会の承認を得た、調査隊に参加するメンバーが増えていくだろう。もうすぐ調査隊の活動は始まるのだ。この黄昏館で!

 

「待って、なんですこの薄汚れた館は」


 馬車を降りた三人の目の前にあるのは、巨大で荘厳な作りの二階建ての館である。

 鉄柵と魔法壁に囲まれた白壁の立派な建物ではあったが、窓はくすみツタが絡まり石畳みの隙間にも草が生えていた。

 ガラクテアは正直なドラゴンであった。

「ゴミ屋敷を体よくおしつけられたのかの」

「そんなはずはありません。お父様は恐らく私のことを試しているのでしょう。このような館で生活ができるのか、と問うておるのです。我慢します!」

「なぁ、国王様って」


 ずっと聞こうとしていて、聞けなかった疑問を口にしようとシトロンは口を開いた。だがそれは、競う様に近づいてくる二台の馬車の音にかき消された。

 一台はカレンシア貴族の馬車だった。紋章は騎士のものである。

 もう一台は隣国のガレッドル共和国の馬車だった。それを見てレウカは少し反応を示した。


「調査隊に参加する方のようです」

 二台の馬車をよく見ると、馬を動かしているのは御者ではなくドレスを着た少女たちだった。彼女たちは互いを睨むその目に火花を散らしながら、ギャギャギャと見事なドリフトをかましながらレウカの前に止まった。

「はじめまして」「お久しぶりです」「「レウカ姫!!!!」」

 二人の少女は同時に挨拶をして、声が被ったと理解すると否や互いを鋭い眼光で睨みつけた。


 レウカは困ったように首をかしげた。

「あの」

「なんなんですのあんたは!わたくしに道も譲らずレウカ様の前でその粗野な物言い!万死に値しますわ!!!」

 金髪の少女は吠えた。いかにもお嬢様というボリュームのある縦ロールとダークブルーの落ち着いたロングドレスだが、なかなかにマッスルな身体をしているとわかる。

「なんなのよあんだ!あたしの華麗な走行に泥を塗った上に姫様への挨拶まで妨害して!頭きた!ぶっとはずわ!!!」

 赤髪の少女も叫んだ。深紅の髪をツーサイドアップにした彼女は、騎士らしい白のジャケットを羽織り、髪に合わせた濃い赤のミニスカートで活発な印象だった。


「あのさ、落ち着けよ。レウカが困ってるだろ」

「あのですね、それよりも。馬車をどかしてくださらない?」

 慌てた様子のレウカが指した先、二台の馬車の下を見ると、ちょうど片輪ずつがガラクテアを踏みつけ今も彼女の上に乗っかっていた。


「酷い目にあったわこの愚か者どもが!!!妾が力を奪われていなければ死刑じゃぞ!?」

「申し訳ありません……」

 項垂れる二人の少女の前で、シトロンは思わず突っ込む。

「奪われたんだ?力」

「……まぁそれは置いておいて」

 ガラクテアの目が面白いくらい泳いだ。

「なんか段々ガラちゃんってクーデターで失脚したのかもって考えてきた」

「ぶはははは妾は銀河の女王、創世竜じゃぞ!?三下ドラゴンが何匹群がろうと」


「他の創世竜にボコられたとか」

 適当に言ったシトロンの言葉で、突然ガラクテアは空中で三角座りをしだした。表情の無い顔で虚ろな眼差しをしている。

「妾は銀河の女王、創世竜……」とぶつぶつ呟いている。

「もしかしてマジ?」

「えー。今の隙にシトロン姫とガラクテア様にお二人の紹介をさせていただきます。まずは」

 レウカが死んだ空気をどうにかしようと話し始めると、赤髪の少女がそれを制した。


「自分のことくらい自分で話すわ、姫。あたしはハニーベル・ハルディン。カレンシアの誇る勇猛なる騎士、バイロンの娘よ。ベルって呼んで。今回あたしは父に代わり姫様の護衛をするために来たわ。言っておくけど、ローマンデルジェイの田舎姫も銀河の女王とやらも興味ないから」

 あんまりにもはっきりというのでシトロンは苦笑いするしかなかった。彼女は口に出した二人の方を一切見ていない。本当に興味がないようだった。


「ではわたくしも自己紹介を。みなさまごきげんよう、ガレッドル共和国のアナト・ダネイと申します。ダネイ貿易会社取締役として姫様とは幼少の頃よりお付き合いをさせていただいておりますわ。つまりみなさまと違うステージにいるといっても過言ではありません。わたくし、姫様の平和を愛する心に感銘を受けておりますの!姫様の助けになるならばこのアナト、いかなる敵もこの拳で倒してごらんにいれましょう!」

 こちらはこちらでなんというか、アクの強い紹介だった。お嬢様の自己紹介で拳を握るパフォーマンスはそうそうない。


「言うじゃないか二人とも」

 最初に来た二人が思ったよりは良い奴なことは、シトロンにとって良いニュースであった。だがそれでも面白くはない。見向きもされない一段下のステージと言われたようで。

「二人とも喧嘩っ早いようだし、ここは勝負しないか?誰が一番レウカを笑顔にできるか」

「「のった!」」

「勝負の内容も聞かないのですか!?」


「この館の掃除で勝負だ!!!!」

「いいですわね。生まれてこの方家事などしたことはありませんが、あなたたちを完膚なきまでに叩き潰してみせましょう」

「上等よ。掃除なんて物を捨てればいいだけでしょ?初めての掃除を完全勝利でおさめてみせるわ。見ていなさい」

「なんだこいつらのこの自信は……。子供の頃から馬鹿をやっては山羊小屋の掃除をさせられていたオレの足元にも及ばないぜ」

「全員馬鹿じゃ……」


 呆れる姫とドラゴンの前で、今ここに勝負の火ぶたは切って落とされた?


明日の20時以降に更新予定です

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