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死後滞在記  作者: 栗山ぽん酢
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序章 第0話

 とある世界のとある村のとある古民家で、この男、ミハエルの命は終わりを告げようとしていた。


「サヨ、もっと近くに来て顔を見せてくれ……」

「あなた、あなた……」


 ミハエルの妻サヨは泣きじゃぐりながら近くへよった。


「あぁ、そんな顔をしないでくれよ。結婚した時に約束したろ?何があっても笑い合いながら支え合って生きていこうって……」

「でも、でも、」


 彼女の涙は止まらない。


「それに、俺はサヨの幸せそうな顔が好きなんだ。だから泣き止んでくれよ……」

「でも、でもぉ……グスッ……」

 サヨは深呼吸をして少し間を開けてから、顔を涙でグチャグチャにしながらも笑ってみせた。


 俺はこの笑顔が好きだった。ニコッと笑った時にできるえくぼも、少し見える八重歯も、、、。この笑顔を見るとなんでも頑張れる気がした。サヨの笑顔を見るためなら命だって惜しまない。そういうと思っていた。


「サヨ、聞いてくれ。」

「うん。」

「俺は多分もう死んでしまう、、、ゴホゴホ、ハァハァ。だから、最後に俺のお願いを聞いてくれないか?ゴホゴホ。」

「いや!最後なんていや!お願い、生きて!あなたの為なら私、何でもする、何でも、するから……」


 そう言ってまたサヨは泣き出してしまった。


「サヨ、お願いだよ。ね?」

「いや!グスッ、私、あなたがいないと生きていけない!それに、それにお腹の子もどうするのよ!この子には父親が必要でしょ?だからお願い、お願いだから私と一緒に生きてよぉ……」


 サヨのお腹には俺とサヨの子供がいる。パッと見てもお腹が膨らんでるのが分かるほどまで我が子は成長をしていた。


「サヨ、俺、この子の名前を考えたんだ。聞いてくれるかい?」

「うん。」

「その子が男の子だったら『イリス』、女の子だったら『アイリス』と名付けて欲しい。『イリス』は僕達二人が初めてデートに行った公園に生えていた思い出の花の『イベリス』から取った名前。『アイリス』はサヨが1番好きな花の名前から取った。どちらも花の名前から取った名前。花のように何事に負けず、綺麗な花を咲かせる、そんな人生を歩んで欲しい、そんな願いを込めたんだ。」


「『イリス』『アイリス』良い名前。」


 気づけばサヨは涙は止まり、自然と笑顔になっていた。


「やっぱりサヨは笑った顔が1番可愛いな。」


「もうやめてよ。ふふっ。私に話しかける時のその優しい顔が私は世界で一番好きよ。」


 少しの沈黙が流れた。嫌な沈黙じゃない。幸せで、このまま一生この沈黙が続いて欲しい。そう思えるほど幸せに満ちた時間だった。


 口を再び開いたのはミハエルだった。


「子供が出来たって聞いた時からずっと考えてたんだ。気に入ってもらえてよかった。」

 優しい顔でサヨに語りかけた。


「うん。」

 サヨは笑いながらも少し悲しい顔をしていた。


「なぁ、サヨ。この子が産まれたらまずどこに連れていこうか。」


「そうだなぁ、どこがいいかな?」


「そうだ!俺たちの思い出の公園へ連れていこう。そこで、花を見つけてさ、これがお前の名前の由来の花なんだよって教えてあげるんだ。」


「うん。」


「この子が少し大きくなったら海に行こう。そこで目いっぱい、遊んでさ、、、」


「うん、、」


 2人の目元は段々と濡れてきていた。


「山にも行きたいな。ピクニックもしたい。あぁ誕生日パーティとかも楽しそうだな、、、」


「、、、」

 サヨは下を向いて、何も答えない。


「この子には、、お友達ができるかな、」

「きっと、きっと大丈夫よ、、」

「元気で、いて、くれる、かな、、、」

「大丈夫よ。だって、だって私たちの子供だもん、、」


 2人の目からは大粒の涙が零れ落ちる。


「この子は、パパがいなくても、、グスッ、生きて、いける、かな、、、」

「大丈夫、、、わた、私が、あなたの分も愛情を込めて育てるから。」


 そう言い、サヨは溢れ出る涙を必死にこらえて、俺の大好きな笑顔でニコッと笑いかけた。


「ハァハァ、少し、疲れたよ。」


 少し喋りすぎた。体力をだいぶ使ってしまったらしい。

 サヨに近づけていた体をベットに倒した。


「なぁ、サヨ、、、手、握ってくれないか。」


 サヨは俺の右手を両手でぎゅっと握った。


 暖かい。あぁ、この手にずっと触れていたい。子供にも触りたかったなぁ。あぁ、この世界には未練ばっかり残してしまうなぁ。せめて、せめてサヨだでも幸せにしてあげたかったなぁ。


「なぁ、サヨ。」

「なぁに?」

 泣きながらも明るい声でサヨは応えた。

「サヨは、幸せか?」

「何言ってるの。幸せに決まってるじゃない。私、私、すごく幸せだよ?これからもこの子と、あなたと、3人で幸せな思い出をいーーっぱい作るの!」

「そっかぁ。そりゃあ楽しみだなぁ、、、ゴホッゴホッ。」


 なんだか少し眠くなってきた。死への足音が近づいてきた気がする。


「あなた、私、きっと、きっとこの子を幸せにするから安心して…」


 サヨも俺が死へ近づいているのに気付いたのかもしれない。さっきまではとても可愛らしい笑顔を見せていたが、今は、悲しさを堪えて、なんとか笑顔でいる、そんな顔をしている。


「サヨ、お腹、触らせてくれないか。」

「うん。いいよ。」


 手を伸ばし、サヨのお腹に触れた。

 暖かかった。ハッキリとそこに命があるのが伝わってきた。


「あぁ、俺もお前に会いたかったな。ごめんな、顔も見せずに行っちゃって。」

 そういいながら優しくお腹をさすった。


「痛っ」

「サヨどうした?」

「この子、お腹けったみたい。」


「ハハッ、ママを泣かせるなって言ってるのかな?すまんな、俺の子よ。パパはどうやら、お前も、ママも幸せにはしてあげられないらしい……ごめんな、ごめんな……」


 そう言って俺は泣きじゃくった。俺はもうこの世にはいれないのか、そう思うと涙が止まらなかった。


 サヨは悲しくも決心した、けれども幸せそうな、なんとも不安定な顔をしながらも、まっすぐとミハエルを見つめながら言った。


「あなた、そんなことは無いよ。私は、もう十分幸せ。赤ちゃんもできたし、十分過ぎるほどに幸せを貰った。だから、だから、この幸せは今度はこの子にあげる番。あなたから貰った幸せ、これから作る幸せ、全部この子に与える……だから、あなたはそんな悲しい顔をしないで、」


「あぁ、サヨには敵わないなぁ。サヨ、約束してくれ。サヨ、君は俺がいなくなったあとでも幸せになる権利がある。だから、幸せになれる、そう思った人がこれから現れたら、俺に構わずその人と一緒になってくれ。」


「うん。」


「この子には父親がいない。だから、俺の分もこの子を叱ってやってくれ。褒めてやってくれ。手を差し伸べてやってくれ。幸せを、幸せを与えてやってくれ……」


「うん……他には?」


「そうだなぁ、あとは……」


 あぁ、段々と瞼が重くなってきた。体の感覚がほとんどない。死が身近に感じる。


「あとは、死後の世界があるのならそこで君を待つことにするよ。だから、サヨが歩んできた道、この子のこと。色んな話を聞かせて欲しい。」


「うん、分かった……楽しみにしといてね!面白かった話、悲しかった話、幸せでいっぱいな話、たっくさん持って行ってあげるんだから!」


「そうだ、なぁ、、他には、、、最後に、最後にもう一回だけ、君を抱きたかったな……」

「何それ、、もう、エッチなんだから。」

 2人は笑顔になった。とても自然な笑顔に、一目見れば誰もがその空間を幸せと呼ぶような笑顔だった。


「なぁサヨ」

「なぁに?」

「手、握ってくれるかい?」

「うん。ずっと握ってるよ」

「あぁ、暖かいなぁ、ずっと握ってたいなぁ。」

「ずっと握っててよ……」

「サヨ、こっち来て」

「なぁ、に……?」

 そう言ってサヨは顔を近づける。

「サヨ、大好きだ。」

 そう言ってミハエルはサヨにキスした。


 そしてミハエルは目を閉じたまま動かなくなった。


 もう身体に力が入らない。目も空かない。ただ、手の温もりだけは感じる。幸せだと思った。ずっと続いてくれと思った。でもその願いは届かなかった。


 あぁ、遠くでサヨが俺を呼んでる声がする。行かなきゃ、応えなきゃ、そう思うけど、もう何も出来ない。

 でも、最後に、最後にこれだけは言わなければいけない。言わなきゃダメなんだ。頼む、俺の口、ちょっとでいい、ほんの一言でいい、動いてくれ。


「サ、サヨ。」

「な、なぁに!どうしたの……!」

「あ、あり、が、とう。待ってる、ね、、、」


 ミハエルの手からは温もりが消えた。


 カイン歴826年。ミハエル・マーカスは、26歳という若さでこの世を去った。

こんにちは、栗山ぽん酢です。先に謝っておきます。ごめんなさい。現在連載中の「世界最悪の〜(以下略)」の執筆が止まってるのにも関わらず、新作品を投稿してしまったことは本当に申し訳ないと思っております。そちらもの方も、しっかりと話は作ってあります。クソつまらない小説かもしれませんが、どうか、読んでくださると幸いです。

趣味で書いているので、多分どちらも投稿スピードはくそ遅いと思います。でも、もしこの作品が読みたいと思ってくれるなら、☆を押してもらい、ブックマークに登録してもらえると、とても嬉しいです。今後も私、栗山ぽん酢と私の作品をよろしくお願い致します。

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