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7.運命の輪が動き出す

アヤコが柵の外の世界を見て歩くようになって1ヶ月。柵から約100m周囲は、探索した場所として、家からも地図として見られるようになっていた。だが、見えるのはどこまでも樹ばかりで、動物1匹も来ることがなかった。

こんな森の中だから、猫や犬は難しいと思っていたが、ウサギもいない。今のところ、スィートバチ以外の可愛い子には会えていない。誠に残念だ。

果物は順調に数が増えているスィートバチが選定や収穫などをしてくれるお陰で、自分が食べる野菜だけを面倒見たので良かった。その分出来た時間で、PCにあったアプリを読み進めた。

知らないことを知るのは楽しい。

出来なかったことが出来るのは、もっと楽しい。

家に生えているハーブだけでも、錬金で薬を作ることが出来るようになったし、核となる水は水道から流れ出ている。

そう、錬金をしっかり知ることで、アヤコの若返りの現象の理由が分かった。


キーとなったのは、やはり女王蜂にもらったローヤルゼリー。そして異世界のお酒に、浄水。

そう、普通に台所で出していた水。それが一番のポイントだった。

何故わかったか。

洗面台の水だと錬金は失敗したのだ。いや、失敗はしていない。品質が中級になっただけだ。台所で出した水で作ったものが全て高品質になり、効果が5倍だということわかった。

その違いは何か。

それは台所に付けていた浄水器だった。

原因が分かれば、納得しかない。

「だからといって、作り過ぎていいわけじゃないよね」

誰に言い訳するわけでもない。ただ自分に戒めもかねてアヤコは呟いた。

6畳の部屋の半分は、クリエイトで作られた棚すべてにポーションが並んでいた。

「せめてどの方向に、どれぐらいで町か村に行けるのか分かれば挑戦もしやすいのに」


最近は独り言が増えてきた。

いや、元から多かったと思うが、体が動く分やることも考えることも多くなった分、口に出るのだと思う。実際独り言を言わないと、色んなジレンマが解決しない。

結局便利なものを作るためには、全てにおいて属性の違う魔石がいるのだ。


電動自転車はあるし、電動車いすもあるけれど、平らな道はどこにもないし、何処へ向かって行けばいいのかさえ分からない。

小型カメラが出来たなら、スィートバチの捜索隊がもって森の中映してくれるとも言ってくれるのだけど、やっぱり魔石がないんだよね。


森の中で勇敢に魔物と戦う?

無理無理。

仮に戦うことが出来たとしても、解体が出来ない。

戦う術の無いアヤコが魔石を手に入れようと思ったら、洞窟で採掘が一番の近道。

だけど、その洞窟さえ戦う術がないアヤコは、見つけにいくことが出来ない。

アヤコをここに送った者が誰か分からないけど、異世界に転移させる人間間違ったと、今頃思ってるかもね。

少しは頑張るので、魔石の作り方初級編とかどこかにありません?


それでもアヤコはスィートバチ達とそれなりに楽しく暮らしていた。

アヤコの生活が変わったのは、突然だった。

生活魔法ライトの魔法を熟知したアヤコは、10m先が見えるぐらい明るい光で森の探索をしていた。そんなある日、蹲り動けなくなっていた黒い塊に出会ってからだ。

警戒しながら近寄れば、真っ黒な子犬に見えるオオカミの子だった。


黒狼…一般的には誇り高き狼で、5~6匹で群れを作り行動する。闇と空間を操り、影から突然現れ獲物を狩る。暗殺狼とも呼ばれている。

この狼は混血の為、光と闇の両方を程々に操り、空間魔法を有する特殊個体。光を有するために闇に完全にまぎれることが出来ず、群れから見放された狼。



流れる血の量と血の乾きようで、この子の敵はアヤコが来るまでここに居たことを物語っていた。

スィートバチ達の警戒が強まるが、鑑定に出た内容によれば、襲ったものは光に弱いのか、アヤコを害する気配は近くにはもうない。

いざという時に持っていた全回復のポーションを、毛がびっしょりになるまでかけた。


「大丈夫。大丈夫だからね」

流れ出ていた血は完全に止まり、大きく抉られていた傷が塞がって行く。同時に痙攣が止まり、体を休めるために休眠に入ったのか、ゆっくりと息をするのが見て取れた。


「これで大丈夫。蜂さん。この子を家に運ぶから急いで帰ろう」

心得たとばかりに、スィートバチ達はアヤコの周りを囲みながら、家への道を最先端で案内した。

アヤコはもう一度この黒狼の子を襲いに来ないようにと、光を先ほどよりも明るく、そして波長を長くイメージした。闇が得意なら、潜む闇を無くせばいい。光の性で影は出来るが、影から出てきた途端に動けなくなるぐらいに。

アヤコの目も少し痛いぐらいだが、襲われるよりはましだと駆け足で家を目指す。

若返っていて良かったと、息が上がりながらも走れることに安堵した。


暫く子狼を抱いて走っていると、キャンッと甲高い動物の叫び声が一瞬聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。太陽の直射日光をイメージした強い光が良かったのか、スィートバチ達の探索にも引っ掛からない、闇からの襲撃を退けることが出来たようだ。

改めて家からの探索には、いろんな準備がいるということを実感したアヤコだった。


家が見えてきた。

いつもならこの辺りには動物の影さえいないというのに、子狼についている血が呼び寄せるのか、小型の灰色の豹のような動物が近寄ってくる。もっと隠れているのかもしれないが、見えるのは3匹。

スィートバチ探索隊の警戒音が鳴り響く。それを聞いた柵の中にいたスィートバチ達も出てきた。最近生まれてきた戦闘隊がお尻についている針を一回り大きくし、探索隊の羽から粉のようなものがまき散らされていく。


初めて見るスィートバチ達の戦闘。

危ないことは止めてねと言いたいところだが、この場に居て一番危ないのは自分だということは分かっているので、ドアに向かって一直線にラストスパートをかけた。

左の二の腕に痛みがピリッと走るが、確かめることはしない。

アヤコは腕から流れ出る温かなものに怯みながらも、柵の中に転げ込むように入った。



読んで頂きありがとうございました。

次回 8.灰色豹

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