58.モッテンセン商会 買い物①
この店の店長であるシュゲが連れてきた人物ということで、アヤコたちは丁寧な扱いを受けた。
「アヤコ様、長旅のお疲れをこちらで癒されてから、店内をご案内させて頂きます。わたくし、副店長のライサ ・ハルラモフと申します。何かありましたら、何なりとお申し付けください」
「ご丁寧にありがとうございます。アヤコといいます。一緒にいる男の子がユーキ、女の子がルーチェです」
「「こんにちは」」
「こんにちは。とても可愛らしいお子様ですね」
「そうなんです。二人とも可愛いでしょ。この子たちも成長していくし、色んな服を揃えたくて。貿易も盛んと聞いているので、珍しいものがあれば、買いたいですね。野菜や花の種、海産物、魔道具など幅広く」
「それは腕が鳴ります」
「楽しみです。ただ、買い物は楽しみなのですが、まず泊まるところを確保したいのですが」
「ああ、これは失礼いたしました。先にお伝えするべきでした。わがモッテンセン商会は宿も経営しております。店内をご案内の後店長のシュゲからの申しつけにより、そちらにアヤコ様をご案内させていただく予定でございます」
「――助かります。では、よろしくお願いします」
かなりの好待遇にアヤコは戸惑うが、子供たちを連れて歩き回るには不安も残る。知らない人に案内してもらうよりは確実だと、申し出を受けることにした。アヤコだけならばどうにでもなるが、子供たちの安全が第一だ。
普通の人にあの子たちをどうにか出来るとは思えないが、森の中で魔物に慣れているのと、慣れない土地で慣れない人間相手に立ち回れるかは別になる。持ち物だけで言えば、いいところの坊ちゃん嬢ちゃんにしか見えない。
『ネプラ』
『ぴぃ!(やっと呼んでくれた!)』
『こっそり護衛ありがとうね。知らない土地に来たし、これから二人と一緒にいて欲しいの』
『ぴぃ、(わかった)』
『ありがとうね』
『ぴぃぴぃ(これからもっと呼んで)』
嬉しそうにユーキの肩に乗ったネプラは、ユーキに頭を摺りつけながら周りを見渡している。
『ぴぃ(問題なし)』
透明になることが出来、隠密行動が得意なベアー鳥であるネプラなら二人に何かあっても対処できるし、目立たない。最高の護衛だと言える。
ライサが用意してくれたジュースを三人は飲みながら一息ついたところで、ご案内しますと声がかかった。
「まずはお召し物から見られますか?」
「お願いします」
衣服は二階にあるらしい。綺麗な絨毯が敷かれた階段を上っていけば、ずらりと掛けられた洋服が綺麗に並んでいた。まるでデパートの洋服売り場に来たような感じだ。
「子供たちの服を」
アヤコが二人に視線を移した時には、ユーキとルーチェそれぞれに専属とばかりに店員がついた。そして二人を見た途端に10着ぐらいがハンガーラックに掛けられて、アヤコの前に差し出された。
出来る!
流石一流の店には、一流の店員。
動きやすそうなデザインで、余計な飾りは少ない。だけど布地はしっかりしていて、少々では破けそうにない。そんな雰囲気のものが7着ほどに、ちょっとおしゃれなワンポイントがあるものが2着。そしてどこの高級店に食事に行くのだという雰囲気のものが1着。
どうやらアヤコが選ぶ洋服の傾向をこれで見ようというのかもしれない。
その方法は間違いではないけれど、お忍びで来ている貴族であるまいし。
そう思いながらも、アヤコは悪気がしなかった。
ユーキとルーチェは可愛いのだから仕方ない。
お金はあるのだ。使わなければ、ただの金属で、タンスの肥やしでしかない。
「ここからここまでの9着ください。最後の1着は、着ることはないと思うので大丈夫です」
「かしこまりました。ではアヤコ様のを…」
「いえ、その前にこの二人に合いそうな、丈夫な手袋と靴をお願いします」
結局ユーキとルーチェのものを選ぶのに3時間ほど要し、その日の買い物は終了となった。途中あくびが止まらなくなった二人をベンチで休ませ、ネプラに護衛を任せることになるほどに、アヤコは買い物に熱中した。
おなかすいた、と二人だ言い出したところでアヤコは我に返った。
「ごめんね、二人とも。夕ご飯食べに行こうね」
「では、日もくれましたのですぐに馬車で送らせます。夕食も準備できています」
「食事もついているのですか?有難いですが、いいのですか?」
「旅のお礼だそうなので、ゆっくりなさってください」
「そうですが、では有難くいただきます」
初めての夜の街を歩くのは不安が残るので、有難くモッテンセン商会が用意してくれた宿に馬車で移動することにした。
馬車の中から見る街の様子は、街灯も所々ついているし、悪くないようにみえるが、それなりに暗い。しかも馬車が行き交うのは見えるが、人が歩いている様子はなかった。夜は馬車で移動するのが、安全なようだ。
「では、こちらが用意させていただきました本日の宿になります」
ヨーロッパのホテルのような趣のあるしっかりとした建物だった。
さて、食事と部屋はどんな感じなのか。
アヤコはワクワクしながら、入り口のドアをくぐった。
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今回は早く書けた。




