56.いざ、ドゥーコメルスへ⑧
この世界の料理がどのようなものかわかっていないだけに、どう答えようかとアヤコは一瞬悩んだが、どうせこれからも二人の為に出すことになるのだから、誤魔化すのは止めた。
「秘伝のタレで、これを付けると二人も野菜を食べてくれるんですよ」
「うん、これつけたらにがくない」
「がんばる」
そう言いながら食べている二人を見たからか、余計に興味が勝ったようだ。
まあ、このニンニクの効いた匂いには、釣られると思う。タレの匂いだけで、お腹空くし。
ただ、量はそこまでない。
家に戻れば元々あった1本分は元に戻るが、それ以上は増やせられないのだから。
「付けてみますか?と言いたいのですが、量があまりなくて…。ここから何日ぐらいでドゥーコメルスには着きますか?」
「ああ、すみません。催促したみたいで…」
「このまま魔物や盗賊に襲われなかったら、二日で着く」
シュゲは商人らしく申し訳なさそうにしたが、アレクは興味が勝っているようで、貴族らしくと言えばいいか、食べられるのなら食べてみたいと、答えを催促している。
二日か。
最悪足りなくなったら、ドゥーコメルスで代わりとなる材料を探して、作ってもいい。野菜を食べさせるというだけで言うならば、マヨネーズもあるし、どうにかなる?
ただ、これ一回きりにさせてもらう。アヤコにとって、子供たちが笑顔で食事をすることが、大事なのだ。
「子供たちが付けている分ぐらいなら、いいですよ。ただし、量はあまりないので、1回限りにさせてください」
「すみません、すみません。ありがとうございます。代価として店でお役に立てそうなものを、用意させて頂きますので」
シュゲの申し出は、アヤコにとってかなり有難かった。こうやって、交渉していけばいいということも、勉強になる。ただ、早く食べたいと顔が言っているアレクは、貴族的な圧ではなく、本当に食べてみたいという興味だけだったようだ。
警戒し過ぎていたかな。
「では、どうぞ」
木皿に2人分のタレを入れ渡す。
興味津々にまずは野菜を付けて食べ、目を輝かせた。
そしてすぐに肉をタレの中に沈めて絡めた後は、まっすぐに口の中に入れた。
「旨い!」
「これは、美味しい!」
「これの作り方、レシピを販売する気はないですか?言い値で買います!」
「タレが作れるなら、売ってくれ!材料はこちらで探す!」
そうなるよね。日本の調味料は、ホント凄い。同じ材料で飽きずに食べられるのは、調味料たちのお陰だった。もし、塩しかない場所なら、もっと早く森から出ていたかもしれないほどに。
「とりあえず、街についてからでいいですか?ドゥーコメルスで材料があるかどうかもわからないですし」
「それでいいです!よろしくお願いします!!」
アレクが何かを言う前に、シュゲは商機だと思ったのか、前のめりになりながら握手を求めてくる。その勢いに若干引き気味になりながらも、アヤコは握手を交わした。
それからの二人はアヤコたちに、今まで以上に構うようになった。
アレクは二人の遊び相手になり、シュゲはドゥーコメルスの国の情勢や、街の雰囲気など情報を教えてくれるようになった。
食欲には抗えない。
間違いない。
それからの二日間は、とても気楽に過ごせていた。ただ馬車の揺れで腰に来るのだけは、どうにもならなかった。
時折馬に乗せてもらって楽しそうにしている二人を見ているのは、和んだけれども。
「アヤコさん、もうすぐ着きます。入国するには審査がありますが、モッテンセン商会が保証人となりますので、ご安心を」
「お世話になります」
「いえいえいえ、お得意様になられる方に便宜を図るのは当然のことです」
鼻息荒くシュゲが燃えている。
今回は二人の服と布、売られている野菜の種や花などを買いに来たことを言えば、気合入れて準備させて頂くと言われている。対価は焼き肉のたれのレシピだ。
ただ、この世界に醤油があるのかわからない。その場合、なにで代用するか。そのあたりは市場をうろつき、鑑定をしながら考えていく予定だ。
もしも焼き肉のたれが難しいなら、湧きで拾った魔石を売ればいいと思っている。魔石だけはどれだけあっても困ることがないのは、冒険者やシュゲが持っている魔道具からもよくわかった。
地球で言うところの電池の代わりにもなるし、魔石の本質によってエンチャントも出来る。そして宝飾にも向いているので、貴族や金持ちには目がない。
シュゲが持つ結界の魔道具を見せてもらったが、単一ぐらいの大きさのものだった。Aランクの魔物からしかとれないそうで、かなり貴重だという。
食べていたお肉でもわかる通り、Aランクと言われる魔物の魔石は、リュックの中に大量にある。なんなら、拳大のものもある。言わないけど…。
なので、あと少しの旅をアヤコは楽しむことにした。
読んで頂きありがとうございました。
次はまた暫く空きそうです。




