54.いざ、ドゥーコメルスへ⑥
「やっぱり、リュックは珍しいですか?」
アヤコは自分がやらかしたかも?ということを誤魔化すように、商人であるシュゲに声を掛けた。
「ええ、そうですね!マジックバッグは時々ダンジョンで出ますし、国のお抱えの錬金術師が作っていますが、その形と素材は珍しいですね」
なるほど。マジックバッグに驚いているのではなくて、形と素材。
確かにこのリュックは自衛隊のリュックサックを参考に作られている形だから、珍しいと思う。素材は…かなり珍しいだろう。どんなに攻撃しても破けない、壊れないリュック。それどころか、反撃までするリュックて何?!って、感じ。
まあ、龍たちが関わっている時点で、普通ではないのだけど。
アヤコは龍一が残して行ったリュックは確かに普通じゃないと考えていたが、アヤコが作ったリュックも普通ではない。この世界にないやり方で作ったリュックは、龍の素材で出来ていないものの、いろんなエンチャントがついたあり得ない機能だということを忘れていた。
もちろんそのリュックは現在ユーキが背負っているし、ウエストポーチの一つは、ルーチェが身につけている。
アヤコが作ったマジックバックは容量に底がある為に、入り切れない素材は龍一のリュックとルーチェのアイテムボックスに仕舞われている。
「そうなんですね。冒険者をしていた夫が使っていた物なので、詳しくは分からないんですよ」
色々と説明を省いているが、真実だ。色々と察してくれたのか、それ以上は聞かれなかった。子供たちを残して、他界したのだと勝手に思ってくれればいい。出来る商人であれば、不躾に売ってくれとは言わないだろう。
その読みは当たっていたようで、少し考える表情をアレクもシュゲもした。
そんな微妙な雰囲気も、ユーキとルーチェの「お腹空いた」の声で拡散した。
確かにバタバタして、お昼ご飯は食べていない。出来れば揺れないところで食べたいが、乗せて貰っている身で我儘は言えない。
「では、もう少し行った場所で開けている場所がありますので、そこで休憩しましょう」
「気を遣って頂いて、ありがとうございます」
「ばあば、ごはんはなに?」
「そう…ね。大勢いるから、お肉でも…」
言いかけてアヤコは、そのままアレクを見た。
「なにか」
「この森でお肉を焼くとは、出来ないですよね」
「いえ、規模は小さいですが結界の魔道具がありますので、問題ありません」
アレクが訝しげにアヤコを見たからか、シュゲが取りなすように答えた。
「シュゲ殿…」
まぁ、アレクの言いたいことはわかる。森の中を旅していて、今更当たり前のことを何故聞いてくるのかという、アヤコに対する不信感。しかも小さな子供が二人もいて、狼をあやすとか…、何者だよって話だよね。護衛対象であるシュゲを守るために、警戒をするのは当然だと思う。
だけど、アヤコにとって森は敵ではない。この森で何をしようと襲われることはないことを、身をもって知っているだけに、森での常識を確認したかっただけなのだ。
良い商人と出会えたことは有り難いことだが、どこまでこちらの手の打ちを見せていいのか、正直分からない。手探り状態で会話をするのは、疲れる。言うなれば、今がこの世界の大人初邂逅。人間に気を遣って生活していなかったせいで、コミュニケーションの取り方が掴めないでいた。世界や国が違えば、ルールも常識さえ違う。
だけど、シュゲがいいというのなら、遠慮はしない。アヤコにとって守るべきは子供たちなのだ。ひもじい思いはさせたくない。させるぐらいならこの場所を降り、今までと同じように魔導バイクで行けるところまで行くまで。
それにしても、結界の魔道具か。そんなものがあるなら、自分たちもそこまで目立たないかもしれない。
アヤコはそのことに安堵しながら、明るい声で食事の提供を申し出た。
「では、お肉はたくさんありますので、焼きましょう。視界が悪くなる夜よりも、安全でしょ?」
「「いいんすか!!」」
アレクが何かを口にする前に、馬で並走していた他の冒険者たちが叫んだ。
どうやら色々とこのアヤコたちのことが気になっていたようで、聞き耳を立てていたらしい。
そして同じように、ユーキとルーチェも「「おにく!!」」と喜んでいる。
二人が喜ぶなら、バーベキューセットまで出してもいいかな。
先ほどまで慎重になっていたアヤコだったが、この瞬間二人の喜ぶ姿の方が優先になった。
アヤコは商人であるシュゲが、結界の魔道具を持っていると言ったことで、この世界で魔道具が一般的だという勘違いをした。シュゲがドゥーコメルスでも力のある商会の次男だからこそ、魔道具を持っていたし、貴族でありながら冒険者であるアレクを雇えているということを知らない。
その為、当然のように色々とやらかすことになる。
アヤコがその事実を知るのはドゥーコメルスに入国してからだ。
だからこそ、アヤコは呑気に「野菜も食べるのよ」とユーキとルーチェに話していた。
その様子を見たアレクは、大きなため息を吐いた。
大丈夫か?こいつら…。
そんな意味を込めて、シュゲを見る。
シュゲが大きく頷いたのを見て、アレクも色々と諦めた。
悪人でないことはシュゲの持つ水晶で分かってはいた。善人であれば青・軽犯罪(窃盗・詐欺等)を起こしていれば黄色・凶悪犯罪(殺人・強盗・強姦など)は赤に光る。
アヤコは青を示していたのだから、人間性に問題がないことはわかっていた。だが、この森を普通の森のように思っていることに頭を抱える。
事実森狼を犬のようにしてしまえるのなら、そんな勘違いをしても仕方ないのかもしれないが。
余りにも逸脱している行動をするようなら、訂正をすればいい。
そんな風に考えたアレクの読みが甘かったことを、
この先―――――嫌というほど知ることになる。
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テンションが上がったので、書けました!




