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53.いざ、ドゥーコメルスへ⑤

何か用ですか?と声を掛けたまでは良かったが、代表者として声を掛けてきたガタイのいい男は、チラシらと狼をあやしている子供たちを見ていた。

まあ、普通に気になるよね。先ほどまで自分たちが襲われて怪我までさせられたという狼を、子犬のように接しているユーキとルーチェを見たら。

腹を見せた狼に近寄って、二人はわしゃわしゃと撫でていた。シェーンの子供たちと遊んでいたユーキにとって、狼はそんな扱いだろうと思う。


はぁ~。

心からの溜息を1つ溢したアヤコは、ユーキとルーチェにお肉を切って狼たちに分けてあげてと声を掛けた。

「「わかったー!」」


脇に刺していたナイフで肉の塊を切り分け始めた二人をみて、「マジかー」と口々に他の冒険者たちは口にしていた。

それを見た目の前のガタイのいい男は、頭をぐしゃぐしゃと掻きながら名前をアレクと名乗り、取り敢えず狼に対する警戒は最低限にして、アヤコに向き直った。


「あー、助けてもらって助かった。ありがとう」

狼から警戒をアヤコに移したようで、アレクと名乗った男はアヤコから少しばかりの距離を開けながら、お礼を言った。


何かあれば、剣を一振りできる距離かな?剣を振ったことないけど。

そんなことをアヤコは思いながら、そんなアレクの様子を気にすることなく話を続けた。


「いいえ、どちらも無用な殺生はしないほうがいいですから」

アヤコがニッコリ笑ったのが予想外だったのか、アレクは少し面食らったように表情を止めたが、すぐに笑みを浮かべた。

中々出来た男のようで、これから話が通じそうな者がいたことに、アヤコはホッとした。


アレクサンドル・ケアード ドゥーコメルス貴族の三男(剣士)19歳 冒険者D  

パーティー名『ピオニール(開拓者)』のリーダー


画面がボンと出て、鑑定された結果がアヤコの前に出てきた。

うん。こういうのだけ出てきてくれたんでいいんだけど…先ほどの呆れた物言いは、何故出てきたのか。そこを目の前に出てくる画面に追求したいところだけど、今は違うとアヤコは意識を切り替える。


アレクと名乗った男はどうやら貴族で、冒険者として活動しているから、アレクサンドルをアレクと名乗っているのだろうか。まあ、アヤコもこの世界で名乗るなら、態々サトウ・アヤコとは名乗らない。

お互い様だということで、アヤコだと名乗った。


「ああ…その、なんだ。アヤコたちが強いのはわかったのだが、どうしてここに」

「ドゥーコメルスに買い出し…いえ、旅をしてます」


今買い出しって言ったか?

そんな声がアレクの後ろの冒険者から聞こえてくるが、アヤコは無視だ。買い物に間違いはないが、深淵の森の中を子供連れて買い物に行くというのは、常識を知らないアヤコでもおかしいのは、言いかけて気が付いたのだから。


「そう、か。丁度いい。リベルテ王国からの買い付けの帰りだ。ドゥーコメルスへ一緒に行かないか」

アヤコがどうしようかと悩んだのは一瞬。この世界の常識を教えてくれそうな人たちとの交流は持っていたほうがいいと、頷いた。

「では、お願いします」


「そうか。それではアヤコ殿、この商隊の主を紹介しよう」

3台の馬車の主をアレクが呼びに行っている間に、アヤコはユーキとルーチェを呼び寄せつつ、樹々の陰に隠していた魔導バイクを素早く収納した。


「ばあば!お肉あげてきた!」

「二人ともちゃんとお世話できて偉いわね!」

二人の頭を撫でながら、肉を食べてからもお座りして並んでいる狼にアヤコはどうしたものかと悩んだ。このまま森へ帰りなさいと言って、帰るのか。


「アヤコ殿!この人がこの馬車の持ち主のシュゲ殿だ」

「モッテンセン商会のシュゲ・ラロシュです。この度は荷馬車を守って頂きありがとうございます」

「いえいえ、偶然ここを通りかかったので」

「この森の中を偶然…?」

「ええ、偶然。しかもドゥーコメルスへ行く途中で!」

嘘ではない。

「そうですか。こちらは助けて頂いた身。色々と詮索するつもりはありません。是非、ドゥーコメルスへ一緒に行って頂ければ。お礼もさせて頂きたいですし」

モッテンセン商会 アリーズ店長 シュゲ・ラロシュ 31歳 なかなかできる商人である


鑑定さんも認める、中々出来る商人のようだ。それならば会話の中で、色々と教えてもらおうとアヤコは決めた。



「では、よろしくお願いいたします」

「ユーキ、ルーチェ。シュゲさんが馬車に乗せてドゥーコメルスへ連れて行ってくれるから、こんにちはって、挨拶しましょう」

「「こんにちは」」

「はい、よくできました!」

アヤコ以外で初めて会った人に、ちゃんと挨拶できるかとアヤコは内心ドキドキだったが、普通に出来たことが嬉しかった。

感動して涙が浮かんでしまうぐらいには。


案内された荷馬車の一つに三人は乗り込んだ。他の荷馬車からは動物の鳴き声が聞こえた。

「家畜を運んでいるのですか?」

「ええ、羊をリベルテ王国から買い付けて帰る途中で、狼に襲われまして」

「それは、かなり危険が高そうですね」

「ですから護衛をいつもの倍つけていたのですが、思った以上に多い数が襲ってきまして。湧きの後だから大丈夫だと思ったのですが」

どうやら狼たちはこの荷馬車に積まれている動物が目当てで襲ってきたらしい。それはわかったのだが、湧きの後だから大丈夫という言葉に、アヤコは首を傾げた。


「ああ、湧きというのは……」

シュゲとアレクの話によれば、先日摩訶不思議な現象のことのようだった。その後は魔物が減るために、交易として一番盛んになるのだという。その代わりそれを狙って盗賊も増えることから、魔物対策よりも盗賊対策中心の陣形になるのだそうだ。

運よくその湧きの場所を見つけることが出来れば、一攫千金となる。

やっぱりあの魔石たちは価値が高いのか。あれだけ綺麗だと宝飾としてもだけど、魔道具としても価値が高そうだもんね。

一つ勉強になった。

……だが、この揺れはどうにかならないものか。

森の中を走っているのだから、平面でないことは重々分かっているつもりだ。地球にいた時だって、砂利道は車でも揺れたのだから。

だけど……。

お尻痛いし、自分を支えるために踏ん張っているのは、筋肉痛になりそうだ。

ユーキとルーチェは、アトラクション化のようにきゃっきゃと喜んでいる。


アヤコは我慢するのを止め、早々にリュックから夜営の時に枕の代わりにしているクッションを出した。

その瞬間シュゲが息を呑んだ。

ん?

アヤコは何故シュゲとアレクがそんな表情をしているのかわからなかったが、リュックに注目が集まっているのを感じ、―――龍一が残したリュックは、かなり珍しいモノだったことをアヤコは思い出した。


やっちゃったかも。




読んで頂きありがとうございました。

やっと物語が動いた感じです。

ここまでが長かった…。

ブックマーク&評価、ありがとうございます。

仕事が3月まで落ち着かない為、不定期です。


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