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4.この世界のあるあると月

広くなった庭や畑をアヤコは見まわる。画面で見るより実際に歩いてみると、広さを実感した。

「まあ、運動不足にならなくていいかな」


誰に迷惑をかけている様子もないし、時々とはいえ話す相手が出来たことは喜ばしかった。幾ら年を取って引きごもり気味と言えども、人間社会に居て誰とも一週間以上話さないということは、今までなかった。だから、少しだけ、そうほんの少し、寂しかったのだ。


さて、この辺りでいいかな。果実の木々の間に立ってアヤコは大きさを検分した。

どうやらあまり大きい小屋は作れそうにない。というのも、果実の木が一週間で一回り以上大きくなっていた。普通花が咲いて実を付けるのに、早くても1カ月半はかかるというのに、何故か実をつけ始めているし、大きな物は後一週間で食べられそうなものまである。

「これが異世界あるあるなのかしら?」


まあ、今更地球の常識を考えたところで、当て嵌まらないことは知っている。だから、それで済ませることにした。

高さ2m幅、奥行きともに1mぐらいの小屋を、柵伝いに幾つか作ってみた。3つ作ったところで、立っているのもしんどくなるほど疲労がやって来た。

「これも、やらかすあるあるの一つ、魔力不足かしら?」


これはまずいわね。このまま畑で寝てしまいそう。

目を瞑る前になんとか家に滑り込むと、いつも座っているソファーで、意識が刈り取られるかのように落ちた。

アヤコが目を覚ませば既に日は落ちていて、オレンジなった光が部屋の中を照らしていた。

目の前にあるパソコンには、『アヤコ魔力の回復』とデカデカと書かれていた。

まあ、こういう日があってもいいけど、寝落ちなんて若返ったってことかしら?と呑気に思いながら、喉が渇いたねと冷蔵庫を開けた。

「こういう日はビタミンも補充しながら、しっかりと水分取らないとね」


中身の減らない自家製、蜂蜜スダチジュースをコップに淹れ、水で薄めてごくごくと飲む。

この世界に来てから水をひねってから出てくる水は、山の湧き水のように美味しい。

「生き返る…」


時計を見れば17時。

この世界と地球が同じ時を刻んでいるとは思えないけれど、今のところそこまでずれがあるような感じはない。この時計でいえば、外に出る前が13時半だったから、単純計算で2・3時間は寝ていた計算になる。もう一度22時に寝れるほど若くない。

「夜は梅酒でも飲めば良く寝られるかしらね」


まあ、今は晩御飯が優先。

少しだけ作るのが億劫になったが、残念ながら便利だったデリバリーはない。

折角住む世界が変わったのだから、異世界料理も食べてみるのもいいかもとアヤコは興味を持った。

だからといって、外にすぐに出かけて食べられるわけもなく、かといって料理をする気になれず、冷凍パスタをチンして食べることに決めた。

中身が減らない冷蔵庫、最高です。

パンパンと思わず冷蔵庫を拝んで、レンジに入れた。


若返るっていいわね、と思う理由の一つが食事だ。

最後の方はうどんとか、おじやとか、消化の良いものしか食べられなかった。油物とかもってのほかで、どうしても食べたくなったら胃薬とセットで食べた。

それがないだけで、食事は美味しく感じるものである。


食べ終わって食器を洗って顔をあげると、窓のところに女王蜂がいることに気が付いた。

「どうしたの?」

窓を開けて聞いてみれば、『大丈夫?』と返ってきた。

「ああ、心配かけてごめんね。大丈夫。眠ったから」

『良かった。アヤコ、これ』

最近アヤコの名前を覚えた女王蜂は、名前を呼んでくれるようになった。そしてニコニコとそのことに喜びながら手を出すと、カンロ飴のような茶色の塊3つを置いた。

『これで元気になる』

ジッとそれを見ていると、ローヤルゼリー…1つ食べれば5歳から10歳は若返ると言われる、ポーションの材料の一つと出た。


確かにローヤルゼリーは若返りのエキスと言われている。肌に体にいいのも知っている。だけど女王蜂にとっては大事な食べ物のはず。

「もらっていいの?大事な食べ物よね?」

『巣が完成してから、選ぶ』

「巣が完成するまで、女王選抜が行われないから大丈夫って意味かしら?」

『そう、今はまだ安定が大事』

「ありがとう。大事に頂くわね」

『友情の証。休む場所、助かる』

「喜んでもらえたなら嬉しい。明日ならもう少し作れるから、言ってね」

『後2つ、お願い』

「あと二つね。場所もここがいいというのが合ったら、教えてね」

『わかった』


この日の夜、長風呂をしても眠れそうになかったアヤコは、ローヤルゼリーと梅酒を片手に、ウッドデッキの椅子に座り、ぼんやりとオレンジの月を見上げていた。

「やっぱり、見慣れない」


この世界に来た初日の月は地球で見ていた満月とそんなに変わらなかった。随分と月が近いと感じる程大きかったけれど。

そのことにホッとしながら三日後見た時には、真っ黄色の満月の月。そして一週間後にはオレンジになって、段々とピンク色になったと思ったら、2週間後の月は真っ赤だった。

そして今、オレンジ色。

この世界の月は満ち掛けをせず、常に満月で。白➡黄色➡オレンジ➡ピンク➡赤になってまた白に近づいていくという月の移り変わりのようだ。

いつか見慣れるのかしら?

少しは若返ると嬉しいわね。

そう呟きながらローヤルゼリーを舐め、梅酒で喉を潤わせた。


読んで頂きありがとうございました。

次回 5.若返りと挑戦

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