45.この世界の勇者とは
色んなことが一気に起こったせいで、アヤコの頭の中は理解が追いついていない。
それでも腕の中にいる小さな女の子を放っておくという選択肢はなく、車から降りて急いで家の中に女の子を抱きかかえて入った。
自分がいつも寝ているベッドに寝かせ、軽くバスタオルを上から掛けて、改めて子供を見た。
頬がこけて入るが、初めて見た時よりは顔色は戻っており、少し赤みが差しているし、呼吸は整っている。そのことに安堵しながらも、大きな見落としがないかを確認する為に、アヤコは鑑定をした。
ルーチェ(5歳)人族と獣人族のクォーター
光・闇属性 ユニークスキル 『アイテムボックス』
称号『勇者』(魔王回避)
症状 栄養失調 疲労 魔力低下
「5歳?この世界の子供の大きさの平均が分からないけれど、小さくない?栄養失調だからかな。これはこれからしっかり食べて貰ったら大丈夫だし、魔力も疲労も寝てれば大丈夫。ちょっと安心。ただ安心できない言葉が、称号のところの言葉だよね」
状態を知りたいと思って鑑定したからか、今までよりも細かく出たのはいい。
危険って命の危険じゃなくて、魔王になるってことへの危険?!
いや、そんなの想像出来るわけがないじゃない!ちゃんと説明してよね!!ただでさえ、人間一人だからこの世界の常識は分からないし、正解が分からないんだから。ホント私をこの世界に連れてきた人間に言いたい。
色々と出来ることをするのはいい。
説明!!
行動の意味を教えろ!!って!
ホント、龍一みたいな案内人ね。
自分がやろうと決めたことは、相談も行動もいつも事後報告。
意味が分からない。
突然TVが家に来たり、アンテナが立ったり、訳の分からない鉄柱や、木がトラックで運ばれて来たり。
どこの龍一さんですかね?
と何度思ったことか。一言言えっつーの。
ああ、今の年齢で何度かやり取りしたことを思い出した。
最後まで直らなかったけどね。
話が逸れた。
この子の事情は、起きてからにして。
今はゆっくり休んでもらおう。
それよりも…。
「ねえ、ユーキ。自分が変わったこと分かる?」
『分かるよ‼僕、この子を助けるために大きくなったから』
「この女の子、ルーチェちゃんを助けるために?」
『うん。僕たちこの大陸の勇者なんだって。魔王にならなかったから、勇者になったんだよ』
「えーと、ユーキとルーチェちゃんが魔王にならなかったから、勇者になったってことなの?」
『うん、僕ね。魔王だったんだって。ばあばが居てくれたから、勇者になったんだよ。でね、僕が魔王にならなかったから、ルーチェが魔王になりかかったみたい。だけど間に合ったから、勇者になったって』
「えっ?!いつ!誰に!教えてもらったの?水龍さん?」
『うーん、違うよ。神様がそう言ったの。勇者になってばあばを助けてって』
「そう…なの」
『うん、だからね。この子と一緒にばあばといるの!』
「そう…ありがとうね、ユーキ」
納得いかない!
なんでユーキに啓示?みたいなのがあって、私にはないわけ?おかしいでしょ!
これはこの世界の普通?
ああああああ!もう!普通が分からない!
ユーキが魔王にならなかったから、ルーチェちゃんが魔王になりかかった?
意味が分からない。
なんなの、この世界。
アヤコは状況が掴めないことに苛立ちを覚えた。
だけど、ユーキの前で理不尽だと叫ぶのはダメだと、心の中で盛大に愚痴るしかなかった。
そして今度水龍にあったら愚痴を聞いて貰おうと決め、ユーキの言ったことについても確認すると決めた。
中々一人は気楽だけど、困ることもあるのだということを、今更身をもって実感したアヤコだった。
さて、気を取り直して。
今はただ、勇者とは何ぞやということも気になるけれど、魔王という存在にならないで良いのなら、それはそれで良しとして、ルーチェが目を覚めるのを待つばかりだ。
***
ルーチェがアヤコに助け出されたころ、ルーチェの養い親のところに神父が凄い剣幕で駆け込んできた。
「あの子は…勇者様は何処です!」
「え、あの、神父様?どうなされました?」
「そんなことより質問に答えないさい!勇者様は何処です!!」
「あの子は…森に食料を探しに行ったきり、まだ戻って来てません…」
「何と言うことを!!今すぐ捜索隊を出しなさい!」
男はしどろもどろにも、誰かに聞かれたら答えようと用意していた言葉を伝えるが、そんな答えを聞いてないとばかりに、怒鳴られることに納得していない。
勇者認定できないといったのは、神父様じゃないか。
誰もできないとは言ってはいないが、人間自分の都合が悪いことは良いように変換される。だから男は自分の身を守るために、追いやったことを悪いとは思っていない。むしろ、村人が怖がっている存在を追い払ったことを褒めて欲しいぐらいだ。
男はそんなことを心の中でつらつらと思っていた。
そんな呑気な男の様子をみて、事の重大さを全く理解していないことに神父は苛立つ。神父という枠で男を諭すことを辞め、怒鳴り上げた。もう、後がないのだ。
「お前らは!反逆者となりたいのか!」
「「反逆者!!」」
黙って事の成り行きを見守っていた身重の女も男と共に叫んだ。
「そうだ。やっとことの重大性が分かったか!―――――――魔王が誕生すれば、この村は当然の如く、そしてまた国も亡ぶ。かの国のように…」
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