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3.住民が増えました

結局家にあるすべてのローズマリーチンキを使い果たして、薬を作った。それで何とか全員が塗れることが出来たのだから、ここに辿り着くまでにどれだけ傷ついたかということだ。


言葉数が少ないとはいえ、唯一アヤコと話が出来る女王蜂の傷が癒え、起き上がれるようになった時に聞いた内容は、こうだ。

普段穏やかなハニー熊が突然暴れたかと思ったら、おでこに大きな角が生え始め、完全に魔に落ちたのがわかったそうだ。逃げなければと思った瞬間には、一撃で巣の半分を叩き落されていたという。

その後も巣の守り獣ハニー熊が敵に回った段階で、他にも巣を狙う魔獣、魔物に狙われ続け、数を半分に減らしながらここに辿り着いたという事だった。


「そうだったの…貴方さえよければ、ここに落ち着いてもらっても大丈夫よ。蜜になる花はたくさんあるし、果物だって私一人で食べきれないからね」

『ありがとう』


そうなのよね。何がそうなのかと一人で納得しているかと言えば。

元々この家にあった物に関しては、食料であっても薬であっても減らない。

(これも七不思議というか、地球で買い物が出来ないから助かっているけれども)


だけど、この世界に来てから作ったものは、普通に減るし腐る。どういうことかと言えば、元々家にあったチンキを作る為のアルコールは減らないけれど、この世界に来てハーブを摘んで作ったチンキは減る、といった具合だ。

だからいきなり全部の果実の木に実を付けたら、間違いなく腐らせてしまう。そうなるのは勿体ないからドライフルーツにする予定だったけど。それでも一人がするには収穫も手間も足りていない。蜂蜜を作る為の花を咲かせるために果物や野菜を育てるのが上手いなら、お互いメリットはある。

花が足りなかったら果実だって蜜の代用になる、と思うし。


ということで、スィートバチさん達が一緒に住むことになり、住民が増えた。



そのスィートバチたちは自分たちの住む家を必死で建設中だ。その家が出来るまでは皆果実の木の下で休んでいる。

こんな時、凄い魔法が使えて、簡単な家が出来たなら良かったのだけど。

アヤコは溜息をついた。


小説の中で憧れていた魔法を使えるようになったというのに、あまり使って練習することがなかった為に、基礎の基礎、ここに来たことで備わっていた生活魔法しか使えない。

家が魔道具化したおかげで、使うものがガスで無くなっただけで、便利さは変わらない。

家を綺麗にするクリーンでさえ、掃除が大変な水回りに使うだけで、日々は掃除道具を使って掃除している。何となく体が覚えているからか、やらないと落ち着かなかった。

畑でさえ、この柵の中には虫が湧くことがなく、退治することもない。

水もホースで巻けば問題ないし、果物はまだ出来ていないからすることはない。

結果、柵の外に出て行かない限り、この小さな箱庭の中で十分に生活できるために魔法を使うことがなかった。


「これからは少しずつ、外のことも知って行くべきからしね」

これが20代なら冒険とばかりに柵の外に出て、探り探りしながら毎日をワクワクしながら過ごしていたことだろう。だけど未だ年寄りという概念から抜け出せていないアヤコは、そこまで冒険をしようという勇気も、行動力もなかった。

家にあるようなモニターが柵の向こうに向けてつけることが出来たら、ちょっとは興味も沸くかも。まずは魔道具の勉強をすることにした。


PCには『初めての魔道具』という本が読めるアプリが、ディスクトップに貼り付けられている。

それ以外にも、『初めての魔法』『初めての薬づくり』『初めての錬金』『初めての鍛冶』『初めての武術』など初めてシリーズが並んでいる。


この年齢になって勉強するのは大変だけど、それに意味があったなら、きっとそれなりに楽しいはずだとアヤコは思う。

電気がどうのこうのという論理的な話は頭に入って来ないから、簡単でありますようにと祈りながらアプリを立ち上げた。


結果、読むだけで基礎の基礎は覚えることが出来た。基礎の基礎。物の形成をすると言うことを覚えた。

そう、作りたい魔道具の形、いわば箱の作り方だ。

早速イメージを最大限に沸かせて『クリエイト』といえば、あらビックリ!監視カメラの映らないものの出来上がり。これを映すようにするには、対になる魔石が必要とあった。

この必要な魔石を手に入れるためには、柵の向こうに行く必要がある。

何故なら、畑に魔石は埋まってないし、地球にはなかったものだから湧いてくるモノでもない。

外にいる魔物と呼ばれるものを倒すか、魔素を取り込んでいる石を洞窟みたいな場所で探すしかない。


「外に興味を持つためにカメラを作りたかったのに、外を見るためには、外に行かないといけないとは」


ガックリと項垂れた。

でも折角形成を覚えたのだ。スィートバチたちの仮の家を作ってみるのはどうだろう。

いいかもしれない、と過去に見たことのある巣箱を思い出すが……。一人ひとりが大きいスィートバチたち、百匹以上が入る家は思いつかなかった。

仕方ないから四阿に壁を付けたような小屋を作って、窓を付けなかったらいいんじゃないかと作ってみることにした。蜂たちが使わなかったら、自分の休憩場所にすればいい。

意気揚々と巣の近くに行ってみたが、思ったよりも距離があった。


「あれ?庭、広くなってる?」


慌てて家に戻り、家の周辺の様子が写るPCを見てみれば、確実に倍ぐらいには広くなっていた。実際どれぐらい大きくなったかと言えば、畑を入れて40坪前後の家が3つ入るぐらいの広さが、6つぐらい入る大きさになったという感じ。

スィートバチたちが沢山いて、庭が手狭になっていたから気づかなかった。

蜂たちがここに住むのだから、安全圏が広い場所になるのは喜んでいい……んだよね?



読んで頂きありがとうございました。

次回 4.この世界のあるあると月

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