38.規格外な魔法陣
片付けも掃除もそこそこに、アヤコはPCを開いた。
「ん?」
いつも唐突に増えるアプリの内容が更新されたと点滅している。
「何が今度は増えたのかな。管理者になったことに関係する?」
独り言をつぶやきながらアヤコはアプリを開いた。
『ローブやマント等、防具に付与する魔法陣』
まるで昨日のアヤコの行動を見てましたと言わんばかりに、タイムリーな話題。
「こんな風に関わってくるなら、初めから説明してくれればいいのに。ラノベみたいに神様みたいな人が出てきて、説明してくれたり、助けてくれるというわけにはいかないのね」
現実はこんなものかと思いつつも、それでも恵まれた環境であることには違いないので、一言愚痴って終わった。愚痴ったところで独りでは、どうにもならないし。
アプリを開けば、かなりの防御力を持つモノが作れる魔法陣だった。
不壊・完全無欠結界・攻撃反射・自動回復・譲渡不可って、杖と同じ?!
あ、え、あぁ…杖は全属性の上級攻撃が出来るけど、この魔法陣は、攻撃は出来なくて防御に特化ってことね。そりゃそうだよね。それでもその防具扱いだからか、常住浄化・体温調節がつくのは有難い。
―――それにしても、どんな敵がいるというのか。
確かに龍がいるぐらいだから、他にも凄いのがいてもおかしくはない。空にはワイバーンみたいなのが日常に飛んでるし、そうでなくてもユーキみたいな暗殺狼と呼ばれる狼種もいる。ただの動物にしか見えないのに、サイズが桁違いなのもいるのだから危険は多いのは分かる。この森では安全でも、森を出たら同じような動物や魔物に襲われて終わり、という人生は送りたくない。
有難く使わせてもらおう。
ご都合主義、万歳である。
今日は子供たちと約束した通りに、お昼過ぎには狩りに同行する。この森では水龍に危険はないと言われたけれども…念のためその前に作っておこう。
パソコンでデザイン候補を決め、アヤコはローブのデザインと魔法陣を印刷した。
元になる角ウサギの毛皮は森の中に紛れる為か濃い目の茶色、こげ茶。その為森の中で着ても、目立たなくていい。ただ、日本の夏程でないにしても、汗ばむ季節に毛皮って…どうなんだろう。準備が整っていざ錬金、という時に我に返った。
うーん…。見た目は暑そうだけど、体温調節してくれるなら…あり?
これから色々作ることだし、作ってみてから決めたらいいかな。
アヤコは錬金台に乗せている角ウサギの毛皮と選んだデザイン画、首元とウエストで結ぶ紐2本で錬金を開始した。錬金はレベルでいえばカンストしているようなので、失敗はない。
身体からス―――ッと抜けていく魔力が止まると、予想通りのものが目の前に出来た。
よし!
出来たものを持ち上げれば、毛皮を使ったというのに、見た目はこげ茶の普通のローブ。あのもふもふは何処へいった?!
ああ、取り外し取り付け可能なフードと首周りのファーになったのか。なんとも気の利いたローブだ。
相変わらず謎だけど、良いものが出来るならそれでいい。
さて、最後の仕上げ。
魔法陣を出来上がったばかりのローブに置き、魔力を流して付与した。
先ほどの錬金ではスーッって感じだった魔力が、バキュームで吸い出されているかのように、尋常じゃない魔力が引き出され、魔法陣に流れ込む。
ちょ、ちょっと!
ああ…ヤバい。このままなら倒れる!
いや、倒れてなるものか!
アヤコは出来上がったかどうか確かめるよりも先に気合で立ち、冷蔵庫にあるポーションをだして一気に飲んだ。無くなった器に流れ込むように、満たされて行く魔力にホッとしながらも、ズキズキと痛む頭を抱えて座り込んだ。
やっぱり規格外の魔法陣だった。
新しいアプリには、魔法陣も一緒に付与できる方法も書かれてあったけど、失敗しないようにと分けて良かったと心からアヤコは思った。
そしてこの魔法陣を作った人は、絶対龍一を基準に考えているのだと悟った。
勇者としてやって来た、規格外と一緒に考えて貰ったら困るんだけど。
次回から何があってもいいようにやる前に準備をしようと、アヤコは誓った。
頭痛が引いたアヤコはゆっくりと立ち上がり、出来上がったローブを確認した。
究極のローブ(アルティメットローブ)
不壊・完全無欠結界・攻撃反射・自動回復・常住浄化・体温調節・譲渡不可
うさぎ種に懐かれる
ウサギ種に懐かれる?
蹴りうさぎみたいなのが増えるってこと?
うん、まあ、もふもふなのは認めるけど、懐かれすぎても悩むところ。
ちょっと昨日お肉一切れ食べてみたけど、意外と美味しかったし。
―――そこは、追々で。
取りあえず、昼食を食べたら杖とこのローブを羽織って森の中を探索しよう。
読んで頂き、ありがとうございました。




