33.水龍の心情と恐るべき機能の杖
『そうか…。その杖は究極の杖不壊・完全無欠結界・攻撃反射・自動回復・譲渡不可、壊れスキルと言われるようなものばかり詰め込まれておる。アヤコの元を絶対に離れず、壊れることなく、どんな攻撃であっても完璧に跳ね返す。それこそ呪いや霧のような毒であっても。そして持っているだけで常時体力は万全という、間違いなく世界唯一のものだ。杖の形も望むままだとも言っておった。邪魔ならペンダントにすればいいと言っておったからな』
微動だにしないアヤコに、水龍は言葉を続ける。
『その杖とリュックには、我ら神の御使いと呼ばれる龍の鱗が使われておるから、我らの加護付きだ』
(まあ…これを作った頃はともかく、今はその神の一柱に龍一様はなられておる。我らは神の僕。だから遠慮することなく使えばいいのだが、そのことを知らないアヤコにしてみれば、トンデモナイ品物を渡されたと思っておるだろう。これでも龍一様が突然この湖に現れて、渡す前にと更に不死を付けようとするのを土龍と共に止めたのだ。流石に神であったとしても、了承をしていない番に(勝手に眷属に)していいことではない、と。
いきなり越権行為で神を降格などされては、この大陸が滅ぶ。
この大陸には、我を邪龍化しそうなほどに穢れを持ち込んだ者たちがいる。それを心配なさっていることと思うが、リヒト・ドラーク(光龍)となられた龍一様には、少しは落ち着いてもらいたい。いや突如この大陸を治める神が他の星へ行ってしまったことが、問題ではあったのだが。
勇者として役目を全うした褒美として、アヤコを呼び寄せる予定だったこの大陸が、衰退の一途をたどるのを見かね、神にならざるを得なかった。その為に番に直接会う事すら出来ぬのは、流石に情状酌量の余地はあるか?いや、あの方のアヤコへの執着は甘く見ないほうが良い。神となった今、大陸への直接介入もご法度。我の穢れを治すことも出来ぬのかと、悲観されていたが、ここにきて希望が見えてきた。我が出来ることをするまで)
神の御使いと言われる龍たちにも知らされていない事実がある。
この世界スリロスイストリアにはアロンジェテール大陸の他にあと2つの大陸あり、その大陸ごとに守護する神が居た。龍一を勇者として招いたのが、元神であったトゥエーヒォットだが、2番目という名前を冠している通り、いつまで経っても一番になれないことで兄神に、ずっと劣等感を抱いていた。その上、勇者として呼び寄せた龍一の名声が上がり過ぎたことで、それが刺激されてしまった。
龍一の功績は龍一をこの星に呼んだお前のものだと諭しても、それを受け入れる様子がない。
このままではトゥエーヒォットが邪神になってしまい、星が亡ぶことを兄神と妹神が心配し、他の星で活躍してはどうかとトゥエーヒォットを転移した。
そのことで吹き荒れていた闇は減ったが、新たな神が必要となった。
そこで兄神と妹神は龍一に白羽の矢を立てた。
直接関わらなければ、アヤコに限って手助けしてもいいという条件をだして。
―――というのが、今回の真相になるが、それが語られることはない。
「加護?」
『その杖があればどの大陸であろうとも、我ら龍はアヤコの力になる。我…水龍は、アヤコに尽力すると誓う。―――水を清めてもらったおかげで、澱みが消えた。感謝する』
「それは私というよりも、うちの家の機能(浄水)のお陰。だからこそ、あなたの為に頑張った水の精は、本物の忠義者ね。自分自身が干からびならも、私をここに呼ぼうとしたのだから」
アヤコの言葉に、水龍は水の精に感謝を述べた。
『ああ、そうだな。感謝している』
そう、そのことには水の精には水龍は感謝している。その努力があったからこそ、自分が助かったことは間違いないのだ。ただ、それを本当の意味で浄化したのは、浄水でないことを水龍は知っている。
『主様、主の主様って』
『良い主ではあるが、型破りな方だ』
『この湖が綺麗になったのは』
『そなたが動いたからこそ、手を貸せたということであろう』
『そう…でしょうか?主様の穢れが一瞬にしてなくなるなど、神の奇跡以外にありません』
『そなたの忠義を祝福して、という名目だ』
(本当の目的は、アヤコをこの地の管理人として紐づける為が、一番ではないかと睨んでおるが…真相はわからん。中らずと雖も遠からずといったところか)
『それでも…主様が助かったことに変わりはありません。アヤコ様がいらっしゃったからこそ、主が助かった。その事実は、間違いないのです』
『ああ、そうだな。これから我らはアヤコの力となろう』
『はい!主様!』
二人の主従関係は、この件によりより強固となった。そのことにより、聖なる湖は聖水と呼ばれるほど澄んだ水となり、二人の力も増した。
そのことでこの地で神となった龍一の代わりに、色々とこれからアヤコに巻き込まれて行くことになることを、水龍と水の精はまだ予想出来ていなかった。




