32.聖なる湖(シャインゼー)へGO
次の日、ユーキとシェーンを伴って水龍の元へ行こうとセーフティーゾーンに行けば、昨日とはまた違った景色が目の前に広がっていた。
「凄い!」
慌ててiPadを見ればその湖までの道のり、距離にして直線で10km。元気になった水龍によって整備されていた。
流石、森の守護者というべきか。
迷いようがないほど、まっすくな道。
iPadから道に視線を戻せば、その道も外観を意識してか、土色のレンガのようなモノが並べられていた。しかも体力のないアヤコに合わせてか、家にある普通自動車が通れる幅がとられている。
周りの樹々も綺麗に並び変えられ、道の並びは光がカーテンのように入り込み、聖なる湖畔へ続く道だと言わんばかりの景色だ。
これを見て魔の森、深淵の森と呼ばれている場所だとは思えない。
それに伴い、家から湖に続く10㎞と湖の周りに存在するものも変わってきている。敵対するマーク赤は一切見えず、不気味な動物の鳴き声や吠える声は聞こえない。小鳥たちの囀る声や、小動物の動く音、爽やかな風が吹くだけだ。
こんなにも力がある水龍を弱らせた澱みというのは、どれだけ闇が深いのか。
アヤコは身震いをしながらも、護られていることに感謝して今を生きようと改めて決意をした。
暫く爽やかな風にあたりながら、このまま徒歩で行こうか、気遣いの元車で行こうかと悩んだが、その中間…電動自転車(鑑定ではいつの間にか魔導バイクに変化している)で行くことにした。これならなんとかシェーンの歩きの速度にはついていける、はず。
動くことはこの間確認したし、整備された道ならば、体力的にも問題ないはず。
計算では歩きで2時間ほどだから、自転車で一時間程?
いや、魔導バイクという名に変化しているぐらいだから、時速30㎞は出るはず。
――はず、はずばかりで考えているだけでは前に進まない。行動してから考えるべきだ。
何かあった時の為に、龍一がくれた杖とリュックを魔導バイクにつけて、いざ出発だ!!
シェーン先導の元、アヤコは魔導バイクを走らせる。その横をユーキがはしゃぎながら付いてくる。
そして予定になかった蹴りうさぎが、置いていくな、とばかりに後ろから猛烈に走ってくるのが見えたが、そんなのは無視だ。蹴りうさぎと契約などしていないし、ファミリー認定もしていない。だというのに、いつの間にか馴染んでいる。中々肝が据わったうさぎだ。
付いてこれるなら、ついてくればいい。
速度は30㎞~60㎞出るらしく、メーターらしきものが動いていたが、そこまで急いだ用事はないので、アヤコは辺りを見渡しながら魔導バイクを走らせる。
ただアヤコは不思議に思う。聖なる湖があることは、みんなからの話の中で分かっていたけれど、こんなに近い感じではなかった。それこそ歩きなら一週間ぐらいかかるイメージだった。それが数時間?
そんな疑問も全て水龍に会い、話をしたことで解明した。
周りに景色を見ながら聖なる湖に20分ほどで着いた。
『来たか』
「ええ、水龍さん、龍一のリュックありがとう」
『我もホッとしておる。どういう意図で龍一が我に渡したのかは分かっておらぬが、肩の荷が下りた』
「本当に、考えたらそんな確率なんて0に等しいのに。相変わらず、変な人」
『…そうか。変わった奴なのは、元々か。勇者としてやってきて色々巻き込まれて、達観した奴になったかと思っておったが、あれが通常運転。アヤコも、稀有なやつの番となったものだ』
いや、それ。番である私も変わった奴だと暗に言ってない?まぁ、そこは絶対に違うとは…否定できないのが何とも言えない。
「龍一の話は色々聞きたいのだけど、それよりも教えて。家からここまでどうしてこんなに距離が近いの?」
『ああ、そのことか。この道は特別な道で、元々あった距離を10分の1にしている。転移サークルを設けても良かったがもしものことを考え、阻害できる道で繋げたのだ』
「じゃあ、本当の距離はここまで100kmあるってこと?」
『そうだ。ここから一番近かった国、ラプスまでは200kmぐらいだな』
「ん?ネプラは家からラプスに近い宿場まで最短で3日ぐらいって」
『ベアー鳥は、一日で100kmは飛ぶ。しかも3日ぐらい寝なくてもよいのだから、最短で3日で着くことになるな』
まさかの3日が、ネプラ基準だった。
そりゃそうだよね。そんな日数で森の中を歩けるのなら、家は既に見つかってるし、森の探索はもっと盛んになっている。考えたらわかることだけど、基準が良く分からないまま皆に聞けば、自分基準で答える。そんな当たり前のことまで人間世界から離れると、駄目駄目になるのか。これはこの世界の常識もだし、苦労するかも。
『大丈夫だろう。この世界には常識が通用しない人種は多くいる。龍一の杖とそのリュックがあれば、どこへ行っても死ぬことはない』
「私、声を出してた?」
『いや、龍一が話していたアヤコなら、そう考えるだろうと、な。だからこそ、その杖の機能とリュックなのだ』
どう言うことかと考えている間もなく、水龍の説明が始まった。
『その杖だが。鑑定はしてみたか?』
「リュックの中身は気になって確認したけど、どんなものなのかは…そう言えばしてない」
鑑定をかけようかと思ったアヤコだが、その前に水龍からとんでもない話を聞くこととなった。
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