31.龍一の置き土産
突然夫だった龍一の過去のことを知り、置き土産という杖を渡されたら、気が付けば家という衝撃。
いきなり転移?という疑問を解消する間もなく、アヤコは一日寝込んでいた。
スィートバチの女王からお見舞いとローヤルゼリーを頂き、ハニー熊のメルからはスィートバチの濃厚な蜂蜜。カンカンのヴェルデからは育てていた果実メロ(りんご)の一番栄養価の高いものを3つ。
何かを作る気力もなかったので、有難く頂き食べた。
「はあぁぁぁぁっ」
アヤコは何度目かの溜息をつきながら、杖があることで夢じゃないことを確かめる。
アヤコが否応なしに巻き込まれたのは、あんたのせかいかい!と、今はいない夫だった龍一に何度ともなく突っ込むが、はやりそれに誰も応えてはくれない。
色々と知っていることを聞かないと前に進まないことは分かるが、知りたいことよりも知って悩むことが増える方が厄介だとも思っている。
でも、結局知らなければ、対処できない。
このまま知らなかったころと同じに過ごすことなんて出来ないのだから、聞いてやろうじゃないの!と夜になってようやっと思えるようになった。
明日、湖に行ってちゃんと話をしよう。
『ばあば!』
次の日の朝、元気よく部屋に入ってきたユーキを受け止め、アヤコは頭を撫でた。
「シェーンの言うことをちゃんと聞いてた?」
『もちろん!』
後からユーキを応用に入ってきたシェーンを見れば、微妙な表情をしながらも頷いていた。
これは色々と大変だったかな?
アヤコが寝込んだことで、ユーキはシェーンと子供たちとでセーフティーゾーンで食事をし、寝泊まりしていた。きっと興奮状態だったのだろうという想像はついていた。
「ありがとう。シェーン」
『元気なことは、いいこと』
どうやらアヤコの想像通りだったようだ。
シェーンに何かお礼を…と考えていると、いきなり大きなバッグを渡された。
『アヤコ、水龍から渡されたもの』
それは見事なサバイバルバッグで、よく自衛隊の人が背負っているリュックのようなものだ。
それどうしたの?と聞く前に、龍一が持っていた物だというのはすぐにわかった。
触れた途端に、杖と同じように『承認しました』と声が聞こえたからだ。
そしてそのリュックの中身はチャックを開けることなく確認できた。
目の前に半透明のボードのようなモノが浮き出て、中身が何なのかが映し出されている。
サイドポケット①には多種多様な酒、水、果実水など 101個
サイドポケット②は色んな薬類、ポーション353個(体力回復・解毒・毒・解呪等)丸薬(風邪・疫病・下痢・胃痛・関節痛等)
背にあたるポケットには、金銭類(宝石・各種魔石・白金貨・大金貨・金貨・銅貨)
メインポケット①には魔物から取れる素材と呼ばれるもの530個(皮・爪・毛皮・羽・鱗等)
メインポケット②には、素材でも植物からとれるもの154個(薬草や花、魔草等)
メインポケットの上にあるポケットには、数々の調味料53個(塩・砂糖・生姜・山椒・山葵・醤油・みりん等)
ウエストポーチには、普段使用するお金(341444オニロ(日本円で341,444円)と紙類(契約書や筆記用具)
そしてサバイバルナイフ
それらがこの中に入るわけがないという量が収められている。
マジックバッグには違いないが、重量と質量ともに凄いことになっている。これらが入るような物を、どうやって作ったのか全く想像が出来ない。
あなたは相変わらずね。
アヤコは夫だった龍一ならではだと、感心した。
昔から基本的には常識人だが、たまに何故そんなことになってんの!と突っ込みたくなる事項は多々あった。異世界で常識が違うとなれば、箍が外れてハッスルしても少々なら問題ない。それどころか自分に迷惑が掛からなければいい、というスタンスでいたに違いない。
――というのも。
アヤコは杖を受け取った後すぐに、杖によってこの家に転移させられていたが、その他のものはその湖に置いてきぼりになった。
それを見て水龍は『龍一らしい』と大笑いしたらしい。
杖はアヤコ以外ではただの木の杖にしかならず、こん棒と同じように叩くことしか出来ない。だけどアヤコが手にした場合、ちょっとでも危険を察知すればすぐにでも安全な場所に転移することになっていると話してたそうだ。
そんな説明を龍一が水龍にお酒を飲みながら真面目な顔して話していたが、水龍はそれを話し半分でしか聞いてなかったので、忘れていた。ではそんな危険がアヤコにあったのかと言えば、外的にはないが、内的にはあった。精神的疲労が、危険だと判断されたのだろうと水龍は言う。
どうやら龍一の元々の心配性は、異世界でかなり拗らせているらしい。
異世界で独りだと思っていたが、意外に身近に感じる夫の痕跡に、アヤコは温かくなるものを感じていた。
ありがとう、リュウちゃん。
水龍と昔話に花を咲かせてみるのもいい。
素面で聞ける話も少ないだろうし、お酒とつまみを用意して行くとしよう。
あの緑の小さき者の願いは叶ったのだろうけれど、アヤコを呼ぶことになったあたりの事情も聴きたいし。
「シェーン。明日、水龍に会ってくるわね」
『ぼくもいく!』
「そうね。ユーキも行きましょう。孫がいるのよって自慢しないと」
今は沢山の仲間がいるから、寂しくないよ。
少しだけ昔を思い出して、ノスタルジックになったアヤコだが、スッキリした笑顔でユーキを撫でた。
読んで頂きありがとうございました。
ブックマーク&評価もありがとうございます。
タイトル回収まで、先が長いw
細々と更新




