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2.来訪者

アヤコがスリロスイストリア(伝説の物語)と画面に書かれた場所に転移して一週間。塀に囲まれた敷地内でしか行動していないが、今のところ問題なく暮らしている。これが夢物語なのかと言われたら微妙だが、平穏な毎日を送っていると言える。


毎日日が昇って窓の外が明るくなって暫くしてから起き上がり、朝食を食べる。冷蔵庫の中身は減らないけれど、今のところ畑で採れた野菜と果物以外増えることもないから、毎日同じようなメニューだ。

冷凍庫に入っていた4つ切り黒糖食パンか、北海道のブランド小麦で作られた一斤の食パン半分、のどちらかを焼いて、珈琲を飲む。時折ジャムかヨーグルトがそこに加わるが、そこは以前と変わらないので問題ない。


朝食が終われば部屋の中に掃除機をかけ、簡単に埃を取る。同時に洗濯機に洗濯物を入れ回す。終われば庭に干して、一休みだ。

一休みをすれば、庭に出て果実の木の選定をする。

切り倒した枝は後でまとめて穴を開けた場所にある程度溜めて、乾燥してきたら燃やす予定だ。

画面に出てくる説明によれば、なにせここは最果ての地と言われる場所で、何処の国にも属していない森の中。

そう、何処の国も管理が難しいと言われるほどの、深淵の森。時折凄い獣の唸り声が聞こえるのが、その証拠だ。

始めはかなり驚いて家の中に閉じこもったが、治安のいい場所というイメージが先行していた為か、アヤコの土地とされている場所には、一歩たりとも入って来ない。いや、来れない。一度凄い形相の一突きされた一溜りもないような角の生えた牛が畑に向かって突進してきたが、何かに阻まれて中には入ってきていない。逆にその衝撃で角が片方折れたらしく、痛々しい姿で森の奥へと戻って行った。

畑に残された角は何かに使えるかもしれないと、裏庭の倉庫に眠っている。

その重量約10㎏。台車で運んだのはいいが、腰が抜けそうだった。


お昼になったらその日の気分で色々だ。

冷凍うどんにしたり、スパゲッティにしたり、チャーハンにしたり。勿論野菜たっぷりで。

お昼からは陽も高く暑くなるので、家の中でゆっくりする。

これからもこの気候なのか、こらから移り行くのかは不明。今は日本でいう春から初夏の気候だ。

PCに落としいたヒーリング音楽を流しながら、外から入ってくる風を感じる。

手入れを始めたからか果実の木の花たちが一斉に咲き始めたからか、甘い香りも一緒に運んでくる。今年は新鮮な果物が食べられるかも。


ピンポ―――ン。

この世界ではなるはずがないチャイムが鳴った。

慌ててモニターを見れば、誰もいない。

とうとう壊れたのかと画面を切ろうとしたが、また同じようにチャイムが鳴った。

今度は羽らしきものが見えた。

「羽?」

良く聞けば何匹もいるのか、羽の音が幾つも聞こえた。

「誰?」


答えが返ってくるわけがないと思っても、チャイムが鳴ったのだから聞いてみるべきだろうと声を掛けた。

そうするとどうだろう。声は何を言っているのか分からないが、インターホンの画面に『スィートバチ』と出たではないか。

同時に鑑定がなされたようで、スィートな蜂蜜を作る蜂…果物や野菜を作るのが得意、とでる。

良く顔を見れば、デフォルメされた可愛い蜂で、表情までしっかりとわかった。

どうやら困っているらしい。


「何かに困ってるの?」

ウンウンと大きく首を振ったのを見て、外に出てみた。

インターホンが鳴る門と玄関までは5m離れている。状況を把握するには目で直接見るのが一番だ。

外に出てみれば、沢山の蜂が飛んでいて、中には傷ついた仲間を助け合って支えている蜂も多くいた。

蜂ということで一応警戒はしたが、本当に警戒すべきものであればインターホンまでたどり着けない。それは他の動物で立証済み。ならば休む場所を提供してあげればいい。


「入って」

次々と入って来る10㎝ほどの蜂たち。

畑に続々と蜂たちが降り立った。何百という数の蜂で畑が埋め尽くされた。

その中に羽を片方千切られ、バランスを崩しながらこちらに向かってくる、50㎝ほどの綺麗な蜂がいた。


「動かなくていいから」

『挨拶』

「大丈夫。元気になってからで大丈夫よ」

『感謝』


そう言った後、カボチャの葉の上に倒れた。

スィートバチの女王…ハニー熊が魔獣化した為に、巣を襲われた。巣を捨てて一族で逃走中。

この森の仕組みがいまいちわかっていないのだけど、熊に巣を襲われて怪我をしたってことだと言うことだけは理解した。

この世界に来て作った切り傷の薬で治るのか。木を切ったりするときに出来た擦り傷を治すのに、庭に生えていたローズマリーとワセリン・蜜蝋で作った軟膏。一応鑑定でも薬になっていたけれど、蜂に効くのかどうか。


モニター越しで対応していたと思われる蜂がやってきた。

何度もありがとうと言わんばかりに頭を下げるのをみて、思わず大丈夫だからと頭を撫でた。

始めは驚いた様子だったが、すぐに落ち着いてニコニコと笑った。

可愛い。

3歳ぐらいの子を見ている気分だ。

いや、和んでいる場合じゃない。


家の中に一度入り、軟膏を掴んで外に出た。

「みんなにこれが効くかどうか分からないけれど、塗ってみる?」

そう言って先ほどの蜂に軟膏を見せた。


小さな手で掬うようにして軟膏を取ると、自分の体に塗りつけた。どうやら自ら試してみるらしい。

他の蜂たちもその結果を、固唾をのんで見守る。

小さく光ったと思ったら、体についていた小さな傷がなくなっていた。


翅の音が激しく聞こえた。それは歓喜の声にも似ていた。

動けるものは自ら軟膏を塗りに来て、治ったら自らの手に軟膏を乗せ仲間の羽や体に塗りつけた。

流石に千切れた羽まではすぐに治らなかったが、傷ついた体は治っていく。全部は把握出来ない為に、それらは動ける蜂たちに任せることにして、アヤコは足りなくなった時のためにと薬を作ることにした。

まだローズマリーのチンキは残っている。それで出来るだけ作って、おこう。



読んで頂きありがとうございました。

10話までは毎日更新予定です。


次回 3.住民が増えました

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