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14.夜明けの襲撃

元灰色豹のシェーンは、契約の後眠りについた。呼んでも起きない母を子豹たちはずっと鳴き続け、傍を離れようとしない。アヤコは子豹だけでも家の中で預かろうかと思ったが、逆に放して不信感につながるのも良くないと、見守ることにした。子豹たちは半日も経てば鳴きつかれ、シェーンのお腹辺りに集まるように眠る。


せめてこの親子がゆっくり休めるようにと、セーフティーゾーンを頑丈な檻で囲んだ。念のため探索蜂さん達にも、見回りはお願いしておく。


それでもやっぱり無防備になっているシェーンと子供たちのことが気になるので、PCで家の周りはいつでも地図として見れるようにセットしておく。そうすることにより敵が何かは分からないが、地図上で赤色の▼が付き、警戒を促せる。

そしていつの間にか機能としてついていた、アラーム設定も最大にしておいた。セーフティーゾーン含めて柵の周り100m以内に、敵とみなされたものが近づいたら、警戒音が出るようになる。普段はoff状態で、アラームは鳴らない設定らしい。


やれることをやって、アヤコは寝たかどうかわからない夜を迎える。

ベッドに横になってみたものの、やっぱり眠れそうにない。

今日の月がいつもよりも怪しく深紅に輝いて見え、あまりもいつも以上にピンク色に染まる森が、不安を煽るからかもしれない。

いつも聞こえる凶暴な動物の鳴き声が逆になくて、静かすぎる森がそれを助長する。


『ギャン(ばあば)』

「どうしたの?ユーキ」

『ギャンギャン(じょおうがうまれた)』

「女王?この森に女王が産まれたの?」

『ギャンギャン(シェーン、じょおうになる)』

「えッ。シェーンが女王って…どういうこと?」


それだけ言うとアヤコの答えが返ってくることなく、満足そうにユーキはアヤコの膝の上に顎を乗せ、気持ちよさそうに眠りだした。


溜息をつきながら、アヤコはユーキが言った意味を考える。

言葉をそのまま捉えるならば、『黒豹に君臨する女王になった』ということだが、言葉が少ないユーキが話す内容が、そのままの意味を成すとも考えにくい。

それでも。


上位者になるための条件を考えたら、森の中で変異することは早々にあることではない。まず契約をする機会がない、というよりまずこんな森の奥深くに立ち入る者がいいのだから、契約者となる者に会う機会がない。だから繁殖を繰り返すことで、強い個体が残って行くだけだ。


そんな中で契約をした灰色豹のシェーン。信頼度80%で上位者に変異することは分かっているけど、黒豹になったってこと?そこまでの信頼を勝ち得ているだろうかとアヤコは考えるが、そこはその者の奥底次第で、予想がつかない。

もしも黒豹になったなら、ユーキの言う女王というのはあり得ない話じゃない。通常の黒豹よりも能力が格段に上がるのだ。集団戦ならともかく、個人戦なら、上位に位置する事は間違いない。


シェーンがこの森で君臨する。

うん、カッコいい。

そして、子供たちの生存の確立も上がる。それはシェーンが一番望んだことだから、独り立ちするまでは全力で支援していくつもりだし、いい事尽くめ。


先のことはシェーンが目覚め、森の中の探索をしてから考えよう。


PCの画面に変化もなく、アラームも鳴らない。後は探索蜂たちの警戒する音もなく、ただ静かな森の夜明けを待つだけだ。


ふぁぁっ。

安心したら急に眠たくなった。

ユーキを撫でながら、少しは眠って体力を回復させておこうとアヤコは目を瞑った。



突如、アヤコの睡眠を害するアラーム音が鳴り響いた。

「な、なにッ」

戦争映画の空襲でなるサイレンの音と同じ音が、家中に鳴り響く。PCで警告を示すのは門の前、真っ赤に染まるほどの徴で溢れている。

ユーキも既に起きて、ドアの前でカリカリと外に出るのだと勇んでいた。

外では探索蜂たちが庭中を飛び回り、戦闘蜂がこの家を守るように取り囲んでいる。


その様子にアヤコから汗が大量に噴き出してくる。

戦闘のできないアヤコに出来ることは多くない。

シェーンの様子を見に行き、この家の中に避難させること。

自分の命を落とさないこと。


最悪を考え、完全回復ポーションとエリクサーを掴んで、コートのポケットに忍ばせる。

コートを着るのは気休め程度にしかならないけれど、ざっくりといきなり引き裂かれるよりは、多少の防御になるはずだと仕舞っていたクローゼットから出してきた。

冷や汗と暑さから来る汗で、アヤコの顔は大変なことになっているが、それを拭う余裕もない。


「ユーキ。お願いだから飛び出していかないでね」

『ぎゃん(いくー)』

「行くのはいいけど、落ち着いて」

『ギャンギャン(みんなまってる)』


待ってる?

その言葉にもう一度PCを覗き込むと、真っ赤だった画面は黄色とオレンジ、緑とバラバラだ。ただ色の塊が出来ていることから、集団で違うというのだけは分かった。


緑…警戒なし

黄色…ちょっと警戒

オレンジ…常に警戒態勢

赤…敵認定


シェーンに近い門前は緑が多いのをみると、元仲間なのかもしれない。

警戒は必要だが赤色が少ないことに安堵しながら、アヤコはドアを開けた。

さて、どんな結果になるか。

いざ、参る!


読んで頂きありがとうございました。

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