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10.孫は天才

次の日アヤコが目覚めた時には、既にユーキは元気に家の中を走り回っていた。

家の中が何とも言えないことになっている。

これが子犬あるあるなのか。子狼だけど。

ユーキについていた血糊が渇いた感じでソファについているし、何をひっくり返したのか、あちらこちらに肉球スタンプが押されている。犯人はお前か!となぞ解きをするまでもなく、間違いなく目の前で走っているユーキだ。

ゲージなんて元々この家にはないし、作るという発想さえ浮かばなかった。クリエイトさんが泣くところだ。

しかもユーキをお風呂に入れるしかないと思っていたが、生活魔法クリーンで汚れを取ることが簡単に出来たことを、今思い出した。

憧れていた魔法、便利なはずなのに、一人の生活はそこまで必要としていなかったのだとアヤコは改めて思う。だけどこれからは手がかかるやんちゃ者がいる。ユーキが魔法を使い出すと、分からないでは済まされない。まじめに勉強をしようと誓った。


一先ずユーキを含めて、クリーンで綺麗にする。キラキラと輝くエフェクトにユーキははしゃいでいるが、あなたがここを大変なことにしたのよね?と言わんばかりに、捕まえた。

捕まえたから説教だと抱きかかえたというのに、当の本人ユーキはキャンキャンと喜んでいる。腕の中で構えとばかりに上目遣いで見上げてくるとは、中々やる。

こうなれば『ばあば』は、負けだ。

はぁ……。

クリーンで部屋の中が綺麗になっても、倒れた瓶は勝手に戻ってくれないし、タンスの引き出しから引き出されたTシャツは転がっている。片づけるために動きたいのに、降ろそうと思っても降りたくないらしく、腕にしがみつかれる。狼だよね?猫じゃないよね?君。

まあ、今日は絶対にこれをしないといけない、という用事はない。というか、毎日ない。だから不規則な行動をしても誰にも迷惑をかけない。

部屋を片付けなくても、誰に見られるわけもない。

ならば、遊びましょう!

でもその前に。


「お腹空かない?」

『キャン(すいた!)』

「だから遊ぶ前に、ご飯作らないとね」


そう言えばユーキはイソイソと自ら飛び降りて、キッチンマットの上でお座りだ。

………。

生まれて半年で人間の言うことが分かって喋れる。

天才か!孫は天才か!

こんないい子を授かることが出来て、最高ね!


「食べられないものあるの?」

『キャン(ないよ!)』

「どうしてわかるの?」

『キャン(そういうもの)』


この世界で外の物がアヤコにとって毒なのか薬なのかもわからない。試しながら知って行くしかない世界。ユーキのこともそうなのだと思うことにした。

自分がここに居る意味でさえ、アヤコにはわかっていないのだから。


「そっか。じゃあ、お肉と野菜。そしてデザートに果物を一緒に食べよね」

『キャン(たのしみー)』


朝食を食べ、アヤコは果物を取りにユーキと庭に出た。

何故か探索蜂たちが門のところに集結していて、騒がしい。

そういえば探索蜂の痺れ粉で、動けなくなっていた灰色豹の雌を囲ってたことを思いだした。

まだ動けないのかな?

柵の外の様子を見るには、ユーキを連れては危ない。間違って森の中に入ってしまったら、助けることが出来ないのでどうしようかと悩んだが、こんな時こそ魔法だとクリエイトでユーキを囲い込むように檻を作った。

「少しだけこの中にいて。外は危ないから」

『キャン(いや)』

「いい子ね」

『キャン(やー!)』

「後でデザート食べて庭を散歩しましょ。だから、待ってて」

『キャン(ムゥー)』


ムゥーって、可愛すぎる!!

でも、心を鬼にしないと後悔が先に来たくない。

「蜂さん達、この子が暴れないように見てて!」


アヤコの声に探索蜂の半分がユーキの周りに集まって、羽をブンブン言わせて慰めてくれている。

それを見届けてアヤコは探索蜂の誘導で柵の外へ出た。

そこには出産したばかりで授乳をしている灰色豹の雌と、3匹の子供たち。そして檻の中から斬撃みたいなもので撃退したと思われる灰色豹よりも少し小さい灰色狼の死体が2つあった。その灰色狼も別の動物の餌となりかけていたのだろう、1つは下半身がない。多分だけど、探索蜂が騒ぎ出したので逃げたということのように思えた。


灰色豹が1.2mほどで灰色狼が1mほど。体格差はあまりないけど、格差は豹の方が上って感じかな?それとも母は強しってことだろうか。

灰色狼…風を操る狼。集団で噛みつくことで相手をしとめる。


『アヤコ、ここに魔石』

女王蜂が灰色狼の額のところを指さす。

正直目を凝らしてみないとわからないぐらい小さい。

灰色の毛に埋もれてわかりにくいほど小さい水色の石。

だけど貴重な魔石だから取っておくことにした。

すぐに戦闘蜂がやってきて、針で魔石を落としてくれた。

「ありがとう」


『これは埋める』

『これは食べさせればいい』

女王蜂がいう埋めるというのは、食べ散らかされた先ほど魔石をとった灰色狼。もう一つは、魔石はないが丸ごと残っている灰色狼だ。

母親である灰色豹は生んだばかりで動けない。しかも一度出たら戻れない設計。

だよね。この中にいた方が、今となっては子供たちにとっては安全。無いと困るのはこの母親のご飯。


アヤコは頭では理解した。

埋めるのは簡単。ほら、埋めた。

問題はどうやって運ぶか。

目を瞑って運ぶのはいいけど、それ以前にこの重量を持ち上げる自信がない。

死体の下に板を作って、運ぶための取っ手を付けて、板の下に車輪を付ける。台車もどきを作ってみたが、動かない。台車もどきを動かす為に土を均さないと、凸凹で無理だった。そう、砂利の上の台車を動かす感じだ。


よっこらせ。どっこいしょ!

腰に来る、腰ヤバい!

あ、生活魔法の運搬を忘れてた。

「キャリー」

灰色豹の前に持って行くと、鼻を引くつかせた。

「これ食べる?」


なんとなくこっちが言っていることが分かったのが、入口から少し灰色豹が下がった。どうやらここに置いて欲しいという意思表示だろうと囲っていた柵広げて、そこに置いた。

お腹が空いていたのか、勢いよく食べ始めた。

そうだよね。昨日から何も食べてないまま出産。お腹も空くよ。

ただ、血の匂いが漂うのはまずい。また他のものを呼び寄せてしまう。

アヤコは囲いの柵も丈夫な鉄に変え、更に森からは見えないように小屋のようなもので囲った。

そしてこの一帯を綺麗にする為にクリーンをかけ、血の匂いもそのモノも消した。


子供を産んだ母親は気が立つ。

アヤコは早々にこの場を立ち去ることにした。

「また来るね」


いつの間にか5mほどにもなった柵の向こうからキャン(まだ?)とユーキが呼ぶ。

ハイハイ、行きますよ。





読んで頂きありがとうございました。

次回 11.この世界に来た意味

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