9.孫認定
お風呂から出てきたアヤコは、籠の中からこちらをジッと見ている子狼と目が合った。
「起きたんだね」
アヤコは腰を落とし、しゃがみこんで子狼を見つめる。
本当は子狼にべったりと付いた血を流したいが、体力がない時に洗っていいものか…動物を飼ったことさえないのでわからない。
それに子供と言っても狼。噛みつかれたり、引っ掛かれたりしたら、大怪我に繋がる。明日ならポーション飲みながら頑張るが、流石に大量の血を流した今日は、遠慮したい。
「何が食べられるんだろう」
独り言が零れる。
カリカリなんてないし、動物が飲んでいいミルクもない。狼だからやっぱり肉?普段は狩りをして食べてるなら、生肉だよね。異世界の肉とか、食べさせて大丈夫かな。一応軽く焼いた牛肉とかならいけるかな?
アヤコ自身もポーションで元の体に戻ったと言えども、血を流している。補うために赤身を食べるべきだろう。
子狼は取りあえず肉とキャベツを焼くだけで、自分の方には焼き肉のタレで他の野菜と共に濃い目に焼くことにする。
早炊きで米を炊き、冷蔵庫から牛肉の細切れとキャベツをだし、フライパンで炒める。焼き目が付かないぐらいで平べったいお皿に盛った。
そして自分が食べる物には、キャベツ・玉ねぎ・ピーマンにエリンギ・人参を入れて焼き肉のタレで炒めた。ニンニクの香りが充満し、お腹が鳴った。
ご飯も後数分で炊ける。
汁物は昨日の残りの具沢山味噌汁だ。
子狼を見れば鼻をかなりヒクヒクさせている。このまま食べさせても大丈夫かな?でも、安全をとるなら、ポーションも飲ませるべきだね。
子狼は既にお肉が乗ったお皿に目が釘付けになっている。
「まず、これを飲もうか。元気になる飲み物だから」
アヤコはそう言いながら、小皿にポーションを注いで、子狼の目の前に置いた。
子狼は何か言いたげな表情をするが、アヤコは順番を譲る気はない。
根負けしたのか、哀愁漂うサラリーマンの如く子狼は飲み始めた。全部飲み干すと、今度こそ肉寄こせとばかりに皿に視線を注ぐ。
ここで可愛くアヤコを見たなら、アヤコは子狼にノックダウンして皿を差し出しただろう。残念ながら、子狼はそんな芸当は知らないらしい。
「はいはい、どうぞ」
勢いよく子狼が食べ始めたのを確認して、アヤコは自分が食べる物をテーブルに運んだ。
食べ始めて間もなく、テーブルのしたで動く黒い塊を見た。
皿を見れば、全てすでに何もなく、アヤコの食べている焼き肉の皿をじっと見つめていた。
「これは味が濃いからダメだよ」
そう言えば、足をタシタシと叩かれた。
アヤコの言っている言葉が完全にわかるようだ。
これも異世界あるある?それとも特殊個体とあったから、この子の頭がいいのか。
普通の犬と生体が違うのは分かるのだが、何が良くて何が悪いのかさえ分からない。お腹を壊しても、ポーションで良くなることは分かるけれど、体力が衰えている時に態々リスクを冒すこともない。
魔物は雑食とラノベではよくある設定だったけど、流石に鑑定にこれが食べられないとはでないし、子狼本人が答えられるわけがない。
雑炊ならいけるか?
余っていたご飯に人参、豆、キャベツを入れて煮込む。塩分がダメかもしれないので、味付けはしない。
作業を始めたアヤコの足元で、大人しく座って待っている子狼を見る。これだけなら食べない可能性を含めて、先ほどの牛肉も味付け程度に2切いれた。
肉が入ったことを完全に理解しているらしく、テンションが上がったのか、前のめり気味にアヤコの足に子狼の前足が乗った。
アヤコのハートをグッと掴んだ。
もうこれはこの子を孫認定して、可愛がるしかない。
『孫』
未知なる響きにアヤコのテンションもアゲアゲだ。
孫ともなれば呼ぶ名前が欲しい。
何にしようかと思いながら、熱いのを覚ましながらお皿に盛った。
まだかまだかとアヤコの足をタシタシと叩く子狼。
アヤコの中で可愛さが爆発して大変なことになっていた。
クロはありきたりだし、孫認定だから人間につけるみたいな名前でもいい。
闇を司る種族なのに、光をもって生まれてきた。そのことで群れを追い出されたのだろうけど、それがアヤコに生きる希望を与えてくれた。だから希望ある名前にしたい。
勇輝
これからこの子には困難が待ち受けているかもしれない。だけど勇ましく立ち向けるように、周りに光を照らし輝けるように。
子狼の前に皿を置くまえに、アヤコは目を見て名を告げる。
「あなたの名前は勇輝あなたの人生が素晴らしいものでありますように」
そう言いながら子狼改め、ユーキの前にお皿を置いた。
勇輝黒狼族 特殊個体 生後半年
属性 闇・光・空間
称号 アヤコの孫
ユーキの前に突然出てきた鑑定。
それはいい。
なに、称号がアヤコの孫って。意味が分からない。
アヤコ36歳 人族
生活魔法 クリエイト中級 錬金術Max
称号『ユーキの祖母』
いやだから、何故それが称号なのよ。
まあ、調べるのは後でもいいよね。お腹空いてるし。
「ユーキ、食べようか」
『キャン(うん!)』
今返事が言葉で聞こえた?
おかゆもどきに顔を突っ込んでいるユーキを見ながら、気のせいだとアヤコも中断していた食事を始めた。
読んで頂きありがとうございました。
次回 10.孫は天才




