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第〇一八六話 地上最高悪魔の結界突破

 驚いたことにサタンは、魔王の城全体にわたり物理的な結界(オービチェ)を張っていた。ペスペクティーバから教わったラーゴの認識では、他者の結界(オービチェ)中には入れない。また結界(オービチェ)の内側のものへアクセスするには、その結界(オービチェ)が壊せるだけの力を行使し、破壊する必要があった。だがそれほど強い力というのもアテがないのに加え、よほど力加減がうまくできてこその話と思われる。

 落ちこぼれクラサビの腕力程度では歯が立たない上、無理をすればこの魔王城(ディアボリオン)も、壊れてしまうかも知れない。


(─ これじゃ入れないなあ。どうしたらいいんだ)


 ラーゴはしばらく考え、一つの方法を思いついた。

 もし魔力のつきかけている、サタンの張った結界(オービチェ)がそれほど強固でないなら、自分の結界(オービチェ)で壊すことはできないだろうか?

 ラーゴは、サタンの結界(オービチェ)の内側に張り付くよう、自分のそれを作り上げ、そして徐々に拡張して行く。

 檻の中での実験において、これで檻の格子を曲げることができたとはいえ、その格子の強度など、クラサビが後で戻せる程度だ。

 現在サタンは意識がなさそうなので、結界(オービチェ)に内側から力がかかったのを気づけないだろう。つまり大きさは変えないはずであり、ちょうど卵の殻を突き破ってひなが生まれ出るときのように、外の結界(オービチェ)を壊そうと試みた。最初はびくともしなかったサタンの結界(オービチェ)だが、ラーゴの膨らませる結界(オービチェ)に力負けし、ついにはひびを作って行く。


 『ペリペリペリペリ・パッシャーン!』


{やったー}

{すごい、破れたのね! さすが主様}


 今度は自分とクラサビ、そして魔王城(ディアボリオン)全体が包まれた結界(オービチェ)のすべてを包括し、外側に一回り大きく結界(オービチェ)を張る。その後サタンの結界(オービチェ)を、破壊した内側結界(オービチェ)だけ解除してしまえば、消えた結界(オービチェ)と新しいそれの間にある海水が地面に落ち、ようやく侵入完了だ。しかももうそこは、自分が張った物理的結界(オービチェ)の中であり、海中ではない。もちろんレヴィアタンはその外に追い出してあった。

 サタンは城を沈める前に、この結界(オービチェ)を張ったらしい。ラーゴの結界(オービチェ)に包まれた魔王城(ディアボリオン)の中は、だれも吸うものがいなくなった、よどみのない空気に満ちているようだ。


「どっちに行ったらいいの」

「もう自分で歩くよ。ついてきて」


 地面に降ろされたラーゴは、魔王の脈の在り処を透視した。初めての場所ながら、前に立ってそちらへクラサビを誘導する。自然どんどん、城の奥のほうに入って行くことになった。


「ここはあたいが、ユーダに料理を教えてもらっていた厨房辺りだわ。あ、さっきも言ったけど、あたいユーダに会ったんだよ」

「え? そうだったの? それはよかった。名前も付けてもらったりとか、お世話になった人だよね」

「うん、元気にしてて嬉しかったよ」


 なるほど、体育館何個か分のかなり広い場所に、人間サイズとしては大ぶりの調理器具や食器などが、これまたたくさん並べられている。たしかあのときは、パーティーとか祭りといった ── 、いわゆる(うたげ)の真っ最中であった。『自分もここでワンプレートにされる運命だったんだな』と考えると、その感慨はひとしおである。


(─ こんな夢のような生活で、いいんだろうかと思うほどだ)


 しかしアレサンドロを復活させるためのカギどころか、なぜあんな事故が起こったかということですら、今ざっと探した範囲では、なんの手がかりもみあたらなかった。明日のミリンの調査に先立って、ラーゴがここへやってきたのは、もちろん危険はないかの確認が一番とはいえ、そんな手掛かりが見つかりそうかの下調べでもある。加えて、ここを人間に開放して、魔族(ディアボロス)が生き残っていると見破られる心配も排除できない。


 ラーゴは、クラサビと元の魔王城(ディアボリオン)の中を探検し、城の最奥に近い、自分が料理されかけた厨房を横目に見ながら、さらに奥まで進入して行く。

 あたかも、あまり入ってくる者はなさそうな場所であるが、重厚な扉を無造作に開けて進むと、奥から魔脈(ディアポラダー)のにおいがした。


 正面には倉庫らしき出入り口が見え、その隣にもう二つ、同じような開口扉が並ぶ。手前にはガニメデの泉同様の、脈から湧き出る聖泉(ホリフォンズ)を、形取ったようなオブジェがあった。


「ここ、知ってる?」

「うんユーダと一緒に食材を取りにきたことがあるよ。手前は食糧倉庫で、隣はたしか武具や魔法兵器をしまった武器庫。そして一番奥は宝物庫だと思う。どれも魔脈(ディアポラダー)の力で守られているらしいよ。とくに食糧庫は、特別な魔族(ディアボロス)に出し入れしてもらわないといけないの」

「なぜ?」

「中の時間がとまった部分、ゆっくり流れる部分、速く過ぎる部分などに分かれてて、そこから出すのは、時間(とき)を司る能力持ちでないといけないからなの。ハツナやヤヤも、ここで使われていたはずよ。倉庫を運用するエネルギーって、魔脈(ディアポラダー)から供給されるので、ここにあるって言ってたわ。他のところは盗難などから守るためにエネルギーがいるらしいよ」

「なるほど。それでここに、聖泉(ホリフォンズ)と似たような場所があるってわけか」


 つまりここが、この城の一番中心で、もっとも大事なものも集まった場所のようだ。食料と武器庫宝物庫が並んでいるところがなにか悪魔らしい。いや軍の倉庫のつくりは、往々にしてそういうものかも知れないが。



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