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第〇一五四話 すべて神様のおぼしめし

 ラゴンたちが、オートンにそこまで話したとき、突然外から声がした。


「失礼する。ワシだ、オートン」

「ワタシも、来たぞ」

「おお、あの声は……」

「コイダリさんと警備長様のお声だわ。チヨジ、ジジヨ、お出迎えして」


 二人のお嬢さんたちと一緒に、奥さんが玄関へ飛び出して行く。黄色い声で、家人にも被害がなかったことを喜んでいるのが、部屋の中にも伝わって来た。『ナンパ』とかいう、聞いたような名前が聞こえてくる。


「いやー先ほどは失礼した。十分なお礼もできず」

「本当に市長たちには、トンビに油下をさらわれてしまった。とはいえ自分たちの組織や家も心配だったもんで……」


 来客は船舶管理委員会会長コイダリ、市街警備長マモー=タルーデの二人だ。他のとらえられていた町年寄も、市長、魔術師(マーゴー)組合長、聖堂大司祭を除いておっつけやってくるらしい。聖堂では、正義感ある若い司祭見習いが抵抗して見せしめに惨殺されたらしく、その話が流れたせいで町年寄たちの身を案じ、服従に甘んじていたようだ。テロに対しては、強硬姿勢よりも人命優先が共和国の真髄だそうで、たしかに民主主義国家というなら理解できる。

 市長はもちろんこの事態を収拾し、安全確認を行なって、一刻も早く市内に安全宣言のような、ものを出さなければならないらしい。魔術師(マーゴー)たちと警備関係者は、総動員でそのお手伝いだそうだ。もちろん他の町年寄りも、組織的には協力しているが、彼らは今まで監禁されていて疲れているだろうから、休んでくださいと言われて下の者にまかせて来たと云う。少しだけしか様子は見ていないが、きっとボコボの港でも似たようなことになっていると思われた。


(─ まあ、あちらはタオの組織がまだ活動していたという話だから、すべてそちらに任せてもいいだろう)


 しかも、少しくらいは自浄作用にまかせておかないと、あとでミリンの部隊と合流したときに面倒かも知れない。

 それからは先ほどの説明の繰り返しになる。ただし今訪ねて来た二人は、話が早かった。


「それはどこなんだね、ラゴンくん」

「すぐにうちの者を向かわせるよ」


 場所はもちろんタイ島の海岸である。今から行くにも片道一時間くらいはかかるはずだ。留守番しているといったメンバーが、ここから飛んで行ったとしても、十数分あれば先回りできるだろう。


「ところでその船ですが ── たまたまマフィアが間違え、他の船に乗って行った、という話にしていただけないでしょうか?」

「そんなことがあるものか。だれが聞いてもおかしいだろう」


 それはそうだ。しかしここはできる限り、前に出てはいけないところである。実際どう考えても船のすり替えはおかしい。徹底して調べればわかることなのだ。


「そうなんですが ── 。考えてみてください、そんな船のすりかえが、ボクたちだけでできると思いますか?」

「いや、たしかにそれは……」

「これは、対マフィアに組織された、秘密結社の手によるものなのです。決して素性の怪しい組織ではありません。彼らの悪事を許しておけないだけの有志の集まりで。その人たちが裏でマフィアとユニトータを仲たがいさせ、そして大海で争うよう画策したのでこの港は助かったんです」


 秘密結社『ラーゴ』とか『 ── &ラゴン』とでも言うものだが。


(─ 決して世界征服とかは(たくら)んでいません。目的は安定したペット生活で ───)


「なるほど、そういうことだったのか」


(─ よかった信用してくれそうだ)


「それなら今回の騒動もよくわかる」

「そういう組織が動いていたんだな」


 勝手に妄想が膨らんでいきそうだが、そこに載せていただきたい。


「けれど、そういう組織が動いているとわかったら、マフィアはその組織を探して、片っ端から関係者の抹殺を図るでしょう。ボクたちも、関係者だと知られたら毒を盛られたり、一人のところをいきなり襲われたり……」

「そんなことはさせられん!」

「よし。その話乗った。やつらはたまたま間違えたんだ」

「しかし、そんな発表はできんだろう。だれも信用してくれん」

「ふむ、発表は ── そうだな、急に話が通じなくなったことにでもしたらどうだ?」

「なるほど、『バラルの箱船』か。そいつはいい」


 そこへ、市場に買い物に行くのもどこへやら、大人たちの話に聞き入っていた一番大きい娘さんがとびついてくる。忘れるところだったが昨夜、夢の中へも忍び込んだ長姉に違いない。先ほど玄関で来客の家族が無事だと聞いて、歓声を上げたのと同じ声だ。


「そうよ、パパ。わたしジジヨたちに毎日あのお話を読んで聞かせては、神様にお祈りしていたの。悪者たちを船に乗せて追い返してほしいって」


 なるほど夜中に夢で見せたのが、目の前のコイダリ船舶管理委員会会長の私邸であり、彼女はあそこで眠っていた青年と恋仲か、あるいはつきあいたいとかに違いない。


「そうかい、それが通じたんだね。じゃあラゴンさんたちはきっと神様のお使いなんだ」


 変なことを言うと、彼女がラーゴの声質を思い出さないか心配になる。いままでのうっぷんが山積しているのだろうか。急に勢いが乗って来た。たしかにオートン家の子供たちが、ちょうど読んでいた聖書の物語は聞かせてもらって、けっこうそれから、無理な設定を譲り受けたような覚えもある。


「そうですね。すべて神様のおぼしめしなのかも知れません」


 そういうことでまとめておこう。しかしクロスではないが、たしかに魔族(ディアボロス)の発する言葉として、良心の呵責を感じる気がした。さらには、魔族(ディアボロス)が良心をどうこういうのも、かなり語弊のある話だ。


「じゃあ今残っている船は艤装し、見た目、別の船に作り変えてしまおう。そしてラゴンくんにお返しすればいい」


 コイダリ船舶管理委員会会長から、とんでもない発案がなされている。


「えー、いやボクはいらないですよ。動かせませんから」

「じゃあ、どうする気だったんだ?」


 いや、『ドウスル』気とかはない。なかなか頑丈そうな戦艦だったから、万が一タオが喰われかけたとかいう、海獣系モンスターたちに勝ってしまってはいけないと思って、必ず壊れる船と交換しただけなのだ。

 あの三隻がこちらのものになれば、今後同じような戦艦が攻めて来たとしても、対抗する力に仕上げられるだろう。そのためには、戦艦を操舵する乗組員の育成が必要かも知れないが。


「どうぞみなさんで使ってください。軍艦レベルの攻撃能力もありますから、マフィアの同じような船が来ても、撃退できるでしょう? そして速度も速いですから、ボコボの港と手を結んで悪者に負けない就航ルート、輸出入のルートを作ってもらえると有り難い。王国は今から食糧難の時期を迎えるようなんです。それをみなさんの力で、なんとかなりませんか」


 お金の問題はあるとはいえ、輸入ルートが完備されれば貿易を盛んにして、食料の輸入もできる。結果食糧難が回避され、飼育小屋にいる冷血獣(ヘテロサム)がもしかすると美味しいなんてことも、すべての人の記憶から消え去ってくれると有り難い。



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