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第〇一四五話 届いたクーデターの知らせ

 ボコボにやってきていたマフィアのエージェントの記憶を操作するクオレは、ついでに垣間見た中身も暴露する。


「どうもマフィアが王国に上陸する際、支配の足かせになりそうなユニトータメンバーは、すでにブラックリストに記していました。太陽政策が北風に変更された暁には、真っ先に血祭りにあげるつもりで準備しているようです」


 案外紳士的なやつもいるのかと思ったが、さすがにマフィア、ならず者の集まりであり、どいつもこいつもろくな人間ではない。どうやら、こいつらも今は大人しい態度だが、モーイツをシティジャックするにあたり、今のところ町年寄とその家族に限ってけがなどさせなかった、というだけのようだ。極力目立たないよう、逆らった正義感ある市民をリンチにかけるなど、残虐の限りを尽くしてきている。

 こうして先ほどの、出来事の記憶だけを消して元の事務所に戻すと、両者の意識を回復させてご対面だ。マフィアの三人が中に入ってしばらくすると、中でものがぶつかる音も響いて来た。街行く市民もそれに気づいて、不安そうにそちらのほうを眺める者は少なくない。千里眼(プレビジオニス)で覗いてみると、かなり言い争っているようだ。


「なんだ、その顔は。どちら様のお帰りだと思ってるんでぇ!」

「なにおぅ。なんだ、その威張り散らした態度は! だいたいお前らの、そんな態度が今まで、気に入らなかったんだ」


 何かのはずみで、マフィアの男がユニトータの男の胸倉を掴む。それをきっかけにして大乱闘になった。もちろんマフィアも、バックの威光がなければ多勢に無勢である。ユニトータたちは、その威光を嵩に来ているのが気に入らないのだ。一方でマフィアの男たちがそんなことはお構いなしに、高圧的な振る舞いをするなら、これはもうぶつかり合うしかない。三人の男たちは簡単に事務所から追い出されてしまった。


 その後もユニトータの男たちは追撃の手を緩めない。手に手に獲物を持って血祭りにあげようという気まんまんだ。三人のマフィアの男たちは慌てて港まで駆けて行き、モーイツから乗って来たと思われる高速艇で逃げ出す。魔法の推進力で進む、モーターボートのようなものらしい。

 こちらでは先ほどの『偉そうなやつ』が旗を振って、モーイツのマフィアを追撃するよう、町中に決起の伝令を走らせている。もはやヒートアップしたユニトータたちは止まらないはずだが、冷静でいるやつなら、なんとか鎮静化させようと動くおそれはあった。そこで全員がその流れを透視し、真っ向から反対する者に気付いたら、カマール姿のハッチが飛んでいって隷属させ、賛成派に転向させて行く。

 混乱に紛れ、マフィアはモーイツを制圧することに失敗しているとした、作り話も流布させた。市民の有志が非正規軍を組織しており、これを蜂起させれば勝機があるというようなものだ。実は軍艦の砲台もたいした武装(オーディエンス)でなく、壊れやすい年代物であるとした噂も、確たる情報として流しておいた。すぐに港にいるユニトータすべてのメンバーが、総員出動の気運に盛り上がる。自分たちの出せる船を総動員して、モーイツの港に殴り込みをかける準備も始まった。

 いかに魔法の高速艇と言っても、見通しのない夜間だ。影鍬(かげくわ)やウイプリーほど夜目が利く者でもなければ、百キロメートル余りあるモーイツ港までの海路を往くのに、ざっと三時間近くはかかってしまうだろう。もちろんこちら側の殴り込みの準備も、一時間以上は必要なはずだった。


 ユニトータの組織は総動員され、百人以上の組織の人間が船に乗り込んでいる。ボコボの港は空っぽになりそうだ。すでにさきほどの事務所などは武器や金目のものだけが持ち出され、閑散としていた。夜の海を帆船で往けば、急いでも十時間近くかかる。マフィアが向こうからやってきても、出会えるのは日が昇ってからのことに違いない。


「じゃあちょっと、何か助けになりそうなものがないか、確認しに行こう」


 ラゴンたちは、もぬけの殻と化している事務所の中を捜索する。


「ここにもコウモリさんがいるよ」


 コウモリを発見して聞いたところ、マフィアが利用していた連絡用のコウモリだった。そのコウモリに教えられ、いつもの連絡方法で、モーイツの港にいるマフィアに連絡を取る。内容はこんなところだ。


『現在ユニトータを上げ、モーイツの港に集まったマフィアを全滅させるべく、殴り込みの準備を始めた。あと数時間もすれば、そちらに向かってありあわせの十数隻の船を擁し、こちらのユニトータほとんどが、モーイツに殴り込みをかけるはずだ。およそ二百の造反組は艦砲の威力を過小評価している。いざとなったら船を捨てて泳いで艦にとりつき、魔法銃も使い白兵戦で艦を乗っ取るつもりだから、艦にはできる限り多くの兵隊がいたほうがいい。自分たちはマフィアに対し、忠誠を誓ってこの地に残るので、命だけは助けてくれ』


 あの三人よりも先についてしまわない程度。見計らって飛んで行くようコウモリに暗示をかけたラゴンたちは、モーイツにいるミツたちに帰還を伝えておく。


「主様、こちらは異常ありません。それから、完成した船と本物の取り替えも完了しました」


 どうやら今のところ、モーイツの港にボコボの状況は伝わっていないようだ。連絡用コウモリを置き去りにしたので、自分たちが帰るほか、連絡手段はないのだろう。


 コウモリより早く、みんなのいるタイ島へ戻ると、千里眼(プレビジオニス)でモーイツのマフィアたちの動きを観察した。やがて商工館(エントバラル)に立てこもっている、本ミッションのトップとおぼしき男のところへ、まずボコボの港から帰り着いた三人の、逃げ帰った報せが飛び込んでくる。


「ボス、たいへんだ。ボコボへ行ってたやつらが!」

「どうした。あわてんじゃぁねえ!」


 部下の慌てぶりに、一括入れた『ボス』と言われた男が席から立ちあがったところへ、あの三人が転がり込んだ。


「ボス! えれぇこったぜ。ユニトータのやつら、クーデターを起こしやがった!」

「なんだとぉ! お前らが甘い顔を見せるからだ。それでユニトータのだれが、そんなことを言い出しやがったんでえ!」

「それがボス、一部の人間じゃねえんだ」


 ここへほぼ同時に、コウモリの連絡がやって来た。


「ボス、ユニトータの中も、バカばかりじゃないようですぜ」


 ラゴンが出した偽の手紙を読み上げる。


「ただの輸送船十数隻だと? そんなもの、うちの戦闘艦三隻の相手じゃねえ。おいおまえら、あの船で行って二~三発脅してこい!」



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