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第〇一三一話 「もったいない」

 そこでふたたびラゴンの話に戻るが、本日初めてオマルのお世話になった。ちなみに宿泊したところは高級宿屋という設定なので、専用の葉っぱが備え付けられる。

 昨夜は予定外に活躍した反面、ラゴン自身は魔力を消費するような活動はほとんどしていない。結構な量の食事をとったので、消化システムがフル回転して血液を製造した後、増えすぎた血液を排出するためのプロセスも、稼働させることになった。もっぱら活躍しているのはミツをはじめとする親衛隊であり、そのたびにミツを介して魔力補給が行なわれる。

 だが、造血機構の高効率さに加え、摂取した食事も余分だったのだろうか。勝手に血液排出システムが稼働した。食べすぎたので寝る前に排出促進のヤセ薬を飲んでいるような形だ。

 これにより本日初めて生成された、赤血球が抜けたため色のない血液を排泄。今朝それがオマルに出ているのを、親衛隊のだれかが発見し大騒ぎになった。


「えーっ、なにこれ。もったいない!」

「わぁ、すごい量の魔力が捨てられてるう!」


 さすがにオマルのなかには糞と見られる食物の残骸も混ざっており、これを吸収しようとは思わないようだ。

 当然ラゴンは説明を求められた。今回排出したものに含まれる魔力量は、しばらく親衛隊に大量供給してこなかったため、ミツを除く親衛隊平均の満タン比で五回分以上あったらしい。要するにもったいないと云う話であり、そこでなぜ、こういうことになっているかをラーゴは解説させられる。


「簡単に言うなら、魔力が大量消費されないままだと、自然に肺中の血液は増加しちゃうシステムなんだよ。肺から血液が溢れれば、舌下までつけられた血管を逆流し、眠っている間に吐血してしまうでしょ。するとベッドが血の海になって困っちゃうんだ」


 それを避けるために、ラーゴが既存のシステムを活用して対策した結果がこれだった。肺中の血液から赤血球を抜いたものは胃に送り、排泄システムを使って外へ出さざるをえない。残念ながら魔力は白血球のほうに宿っており、これがオマルに出てしまっているところまでは理解が得られる。それを聞いた親衛隊たちは、何やら相談した結果、一つの結論を見いだした。これを代表してヤヤが報告に来る。


「もし魔力の含まれた血液だけを、食べ物のカスいわゆる糞に近いものと分けて排泄できるのであれば、摂取可能な魔力源は捨てることなく、あたくしたちに供給していただきたいです」


 具体的には別のコップ等、飲みやすい器に出しておいてほしいと言う意見だった。飲食したとしても、それらが排出されるのとはタイミングを変えればいいので、おそらく分別は問題なくできるはずだ。出すのは同じなのだが、そもそもこのように食事するのは珍しい。ただ大量の魔力消費がない限り、肺の中で増えてきた血液を排出するだけ、という動作は定期的に行なうだろうし、する必要があった。そもそも人間と違って、飲食で摂取した水分は混ざりものが濾過された真水である。排泄した赤くない血液も、これを貯める臓器に出て行くため、それを水筒のような容器に出しておくことになるわけだ。消化プロセスと、血液排出プロセスは同時に動かせないので、食べたものと混ざる心配もまったくないと思う。

 ただそれをみんなが摂取するというのはどうなのだろうか。赤血球を除いた血液だけ見るなら、それは血液から精製された魔力を持つ無色の液体で、ミツが与える母乳と似たようなものだろう。そういえば許容範囲だが、どうも排泄に利用する器官から出てきた液体だけに、微妙な違和感を覚えざるを得ない。


 急進派からは、直接吸いだしてもよいといった過激な意見があったが却下した。クラサビの満タン五回分は、そもそも一般的な親衛隊が一度に吸える魔力量でもないと思う。唯一ミツなら一度に吸収可能かも知れないが、それを言い出すとまた色々な問題の発生につながるので、おくびにも出せない。

 ただ排出された無色の血液も、他の親衛隊が摂取しきれず残ったものは、ミツが残りを全部引き受けることになるのだろう。ミツが一割でも過剰に取り込むのと、他の者の一割は大きく違うからだ。


 これは余談だが、出発するまでの間 ── いやそれからも、ミツを媒介にした魔力供給の過程において、おそらく十分以上の血液供給を繰り返した。そのためミツは、食べすぎを重ねた胃袋のように、魔力保持限界(キャパ)が二割以上拡大したと聞いている。


(─ そんな話は、前にクラサビも言ってたような気がするな)


 できるだけたくさんの魔力を、仲間に分け与えたいという気持ちから、貯蔵量が増えてきたものとはいえ、そもそもの素養があったに違いない。ミツの場合他人に供給する器官である、バストの大きさに反映されるのでよくわかるのだろう。以前に聞いた対人間比魔力保持容積(キャパシティ)が六十八だったのだが、現在八十後半まで吸えると口を濁した。授乳タイムにちら見したところでは、面接の日の血液補給で戻ったDカップ前後から、ツーカップ以上豊かになったのを感じている。

 ちなみにこのカップの評価は、千里眼(プレビジオニス)が教えてくれるものではなく、ラーゴの感覚による評価だ。


 他のだれにも、目立った自覚はないようだが、同様に増えてきた者はいた。顕著なのは、暇さえあればラーゴから吸血して、常に十二分な状態のクラサビと、聖脈(ホリアダー)より魔力補給を受け続けるクロスであろう。とくにクロスにおいては、道具や結界(オービチェ)を効果的に使うためにも、一度に放出できる魔力を増やしたい。 ── つまり一時的に溜める魔力保持量(キャピタル)を増加させようと、意図的に努力しているのが解る。

 そんなことで早朝から部屋の中ではすったもんだしたのだが、そのうちデニムの使いの者も訪問してくるなどで、なんとかうやむやになりそうだ。今朝の朝食は控えておこうと思ったが、グールメンも同行するようで朝食のお誘いもやってくる。またぞろ朝からたいへんなごちそうが用意されており、先が思いやられるラゴンであった。



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