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第〇一三〇話 異世界のトイレ事情

 一刻も早く共和国へ渡ろうと王城を離れたものの、初日からなんだかんだあったラゴンチームだったが、ケーオギ宿のふかふかのベッドで、旅先はじめての夜も明ける。

 ところで、昨日オートマトンのラゴンは、ラーゴが動かすようになってから初めての食事をした。


 そもそもこのオートマトンに、ものを食べ、消化する能力があるのは云うまでもない。呪文暗号(スクリプト)から、本来の設計の主旨を読み取る限り、それを魔力入りの血液に変換することが、一般的かつ唯一のエネルギー摂取方法になっていると思われた。だが最初、まったく魔力を持たない状態のラゴンは、最初にその食べものを摂取し、消化するエネルギーを、どこから得るつもりだったのだろうか。これはこのオートマトンを作った作者に会える機会があったら、ぜひとも聞いてみたい疑問である。


(─ いやまてよ、こいつはサタンという悪魔の、お稚児じゃないかと噂されてたんだ。それならこいつは、サタン自身が作ったものじゃないんだろうか)


 だが、その形跡はどこにもない。最初に書かれたコードの最期に、銘らしき記述があるが、そこには一文字『ギ』と記されているだけだ。


 ちなみにエネルギー補充に関してだが、実は魔族(ディアボロス)も同様で、現在ミツから直接に魔力を供給されるのは、親衛隊の多くもイレギュラーと感じている。魔王島(ディアボライル)では魔脈(ディアポラダー)があったため、そのときには吸血なしでも空腹を覚えたりしなかったようだ。だがもともと食事を摂る生き物から魔族(ディアボロス)になった者にとって、食事なしで満腹感を得ることは難しい。だから魔族(ディアボロス)の中に、魔力補給には飲食が不可欠なものと勘違いしている者は少なくないという。カマールから生まれたウイプリーにとっては、さしずめ吸血行為になるのだろうか。

 だから、オートマトンの創造者もエネルギー補給を食事によるものだけとし、スタンダードにしてあるのだろうと、ラーゴは結論づけた。


 さてラゴンの話に戻るが、オートマトンは食べた食物を胃の中で、魔力エネルギーを蓄積する媒体になる血液とそれ以外に分ける。『それ以外』とは、何もかもを取り去ったカスのようなもの、 ── ヒト(しゅ)でいう糞尿の類であり、見た目も大きくは変わらない。人間と同じように、オートマトンもそれを排泄する。


 よって今朝ラゴンは、ラーゴが動かすようになってから初めて用を足した。それはラーゴが意識して行なわせるものではなく、ラーゴが操作をやめたとき自動的に切り替わる、ラゴンの自律行動の中で実行されるのだ。


 そこでこの世界のトイレ事情と言うか、排泄事情を確認しておこう。あらかたはレオルド卿が集め、あるいはまとめた、蔵書などからの受け売りだが。

 ラーゴの場合、檻内に藁などが敷き詰められた、いわゆる専用のトイレが用意されている。それらは世話係の手で毎日捨てられ、清潔に保ってくれているが、実はこの世界では人間様の事情も大差はない。

 唯一王城の中で王家用には専用のトイレがあり、そこには魔法道具で作られた聖泉(ホリフォンズ)によるウォシュレットが存在する。それは温風で乾かしてくれる機能を持つ、というのもすでにラーゴは心得ていた。なぜラーゴが、そこまで知っているかは王家に女性しかいないことを斟酌して、追求しないでいただきたい。

 あるときたまたま、相続者(インヘリター)記憶にあったウォシュレット機能を有する道具が、この世界にも存在するのに気づいた。ラーゴは純粋に、それがどこまで本家ウォシュレットと同じなのか、興味がわいただけなのだ。


(─ いや、自分はいったい、だれに対して言い訳しているのだろう?)


 しかし王城で働く者も、王国の下々の者もその他は大きくは変わらない。まずトイレという設備がないのだ。これは王城から出かけた場合、陛下や殿下であっても事情は同じである。

 王都は北ハルンの中でももっとも先進的な都市ではあるが、下水道というものは完備されていない。そこで十年あまり前、現国王が就任して間もなく、都市内で糞尿を集める荷車が、常に回収して回るシステムを取り入れた。それまでは決められた場所に、自分で持って行かなければならなかったようだ。そのため、面倒がって家の中で溜まったり、道や庭へ捨てたりと問題が色々発生してきていたという。

 そんなシステムが稼働して以降は、回収車が鐘を鳴らしながら、常時かなりの数で王都内を巡回してくれるようになり、街の衛生状態は格段に向上したらしい。実はこの仕事も、タオたちの組織が運用を買って出たため実現できたシステムであった。ちなみに、こういった汚れ仕事を取り込んで行ったことから、ユニトータの造反を誘発したとも言える。 ── というのは、おそらくその発案者であり、それらの事情を詳しく整理している、レオルド卿作成の資料にあった読みだ。

 そこへ捨てる糞尿は個人の家なら庭かベランダ、あるいは庇を付けた屋外に備え付けた、オマルや尿瓶(しびん)というものに貯められた。大きな宿屋とか人の集まる建物では、いわゆる共用トイレ的な場所がある。ここでも雨よけだけがなされた青空天井の場所に、尿瓶(しびん)やオマルが備えられているだけの話で、結局は同じだそうだ。当然のように女性でも、立ちションと大きく変わらなかった。

 一応、王都内の繁華な街並みの場所には、公衆トイレ的なものもあるらしい。しかしほとんどは、路地の入ったところなどに、壺が共用で置かれているだけ、というのがスタンダードのようだ。王城の中はどうか。やはり建物の外に点々と設置された壺を、少しばかりの囲いがある程度であり、クリムやリムルでもそこで用を足す ── はずである。

 くわえて言うなら、ラーゴの相続者(インヘリター)記憶でいう、トイレットペーパーらしきものはない。家の中では木製のヘラを用いたり、藁とか吸湿性の高い専用の葉っぱなどでぬぐう場合もあった。もっとも多いのは手を使ってよく洗うことらしく、そのための布を自前で持ち歩くのも富裕層では一般的という。繰り返し利用されるので、女性でも尿の後拭き取るのは、衛生的にあまり行なわれないようだ。



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