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第〇一二二話 グルメ顔役の大歓迎

 自領 ── 新サイバー子爵領内で浚われかけた領主夫人デニムと、ラゴンたち一行を乗せた鹿車(かしゃ)が走り続けること数時間。一番近いと思われる宿場町ケーオギに到着したころには日が暮れていた。


 この町で夫人一行は襲われたと云う。

 けが人の治療と、まだ体調が優れない夫人を気遣い、今日はここで全員一泊ということになった。そこでラゴンたちを迎えたのは、タオに教わったように、もっとも大きな宿場町ショカソンから出張ってきたグールメン。この街道の顔役を名乗るその男に、領主夫人救出の立て役者ラゴンたちは大歓迎を受ける。

 到着してあわただしく挨拶を終えると、早速夕食の用意が調えられているらしい。たしかにタオから聞いたとおり、グールメンからは美味しいものをごちそうしてもらえそうだ。


 グールメンは、この辺り一帯の宿場町の顔役代表だそうで、今回の事件を耳にするなり、自分の宿があるショカソンの町から、鹿を飛ばしてやってきたようだ。自分の息のかかった宿場町で、領主の令閨がさらわれるなどといった不祥事が起こったことは、彼の沽券に関わる一大事と、宿場全体にものものしい警備もなされていた。

 タオ同様、腕に自信のあるタイプに見えるが、魔法銃と鉢合わせしなかったのは何よりだ。自分の命を省みず、向かって行きそうな勢いを感じる。

 事件を聞きつけて、鹿を飛ばしてやってきてみたらすでに片付いていたらしい。しかも助けたのが旧来の知己、タオの知り合いという関係にたいそう感激され、ラゴンたちはたいへんなもてなしを受けることになった。


 夕食時、夫人たち一行は、体調とけがの治療などで、別にとられると知らされる。三時間以上一緒に鹿車(かしゃ)に揺られてきたが、途中ラーゴは話を聞いていないし、これ以上ぼろを出したくなかったので好都合だ。

 ちなみにラゴンはオートマトンとはいえ、飲食に関して問題はない。ただしラーゴが知る限り、実際に食べるのはこれが初めてのはずだった。


(─ そもそも、そこでしかエネルギーは補給できないのだから、当たり前か)


 ハナコやミツも楽しく食事をいただいているものの、それにもまして周りの男たち ── グールメンを含めて五人だれもが、美人二人を囲んで嬉しそうに見える。

 サイバー子爵夫人デニムは、クリムに似て絶世の美人というよりも、人懐っこく親しみやすいお姉さんの雰囲気だった。

 屯所の衛士と一緒に迎えにきたメイドたちも、『女は愛嬌』なタイプだ。領主自身がそういう好みか、あるいはこの地方に美人が少ないとでも言うのだろうか。


(─ いや、王城に集められたのが、国の最たる綺麗処ということかも。そもそもクラサビ以来毎日美人ばかり見すぎて、感覚が麻痺しちゃったのかも知れないな)


 積極的に情報交換する以外はただ眺めていたラーゴだったが、飲み食いのフィードバックを確認しようと、クラサビに断ってこちらに集中する。しゃべりもラーゴの、生音声に切り替えた。

 現在ラゴンはデータライブラリーを装備し、ラーゴの記憶情報まで一部は持っている。さすがに相続者(インヘリター)記憶までは出てこないが、そのおかげですべての応答は、ラーゴの考えたまま自律的に行なえるのだ。それはほぼ、ラーゴがする応答と違いはない。さらにはラーゴがこう言おうと考えるだけで、その通りにしゃべってくれるようになっている。しかし細かい言い回しまでもが、必ずしもラーゴの話したいこととまったく一致するかというと、そうとは限らなかった。より基本的な表現になっているといったほうが正しいだろう。

 たとえば、『こちらのソースにつけると、芳醇なこくがありますね』と言いたい場合でも、『このソースは美味しいですね』程度へ、変わってしまうようにである。なんとなく自動翻訳機で多国語に変換した結果を、もう一度戻した感じだ。以前のように聞き取りにくかったりはしないものの、その辺りは自分でも同じことを言うたびに、言い回しが変わるのと同様であろう。だから生音声になると、急に話が弾んでいった。


 お互いに打ち解けてきたと思われたのか、隣に座ったグールメンが肩を抱くようにして尋ねてくる。すでにタオの危機を救った、という文書でも見せられたのか、ほとんど義兄弟扱いだ。


「ラゴンくんは、魔法銃と戦ったらしいな」

「いいえ森の中では木に当たって使い物にならないと思ったのか、一発ずつ撃ったらすぐ剣や刀で襲ってきましたよ」

「そうだったのか、それは運が良かった。俺たちも腕には自信を持ってるほうだが、あんな飛び道具を使われたんじゃあ、命はいくつあっても足りやしない。王国では殿下を守っていた、鎧の兵士にも死傷者が出たらしいじゃないか」


 前言撤回、魔法銃の危険性は心得た賢人のようである。


「そういう噂は聞いておりますが、正式な発表はないので何とも」

「そうだ。これもサイバー子爵様から、内々でと言って教えられた話だったな。それでそいつらはやはり、マーガレッタさまが成敗なさったのか?」

「さあ。かなりの攻防があったことなら、遠くから見ていた者もいくらかいたようですが。どのような状況だったかを知る者は、おそらく多くないでしょう。たしか警護の方々の中には、死傷者も出たと云う話でした。それでも殿下に一切おけがはなかったと発表されたのには、王都のだれもが喜んでおります」

「そうだ、それが何よりだ。あのお方は、未来の王国の希望なんだからな。現王が立派に治世を行ない、次の跡継ぎにしっかりした方が決まっているということは、本当にありがたい話なんだ。二十年前までを思い起こせばな」



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