周囲目線の「これまでのあらすじ」2
── ここから本編 主にミリン視線───
凱旋して変わり果てた兄の姿と対面して絶望した次期王位継承者ミリン。だがまもなく献上された珍獣と対面、気に入って鶴の一声で聖なる中庭にある冷血獣飼育小屋で飼うことにする。
すぐにラーゴと名付けて名札と首輪を授けたところ、夕餉の後に取り付けたらしく、翌朝まるで鳴き声が名前のようという報告が入った。だが午前中いっぱいに予定され、国王も出席する戦没者慰霊祭への参列は疎かに出来ない。悲痛な気持ちで、霊廟に納められる兄の躯を見送るための式典だ。そんな重苦しい気持ちを抱えて、愛しの珍獣に再会できたのは、遅い昼食の後となる。
しかし連れ立ったマーガレッタまでもが動き始めたラーゴに心を奪われ、魔族疑惑が疑われる間、自分が面倒を見ると言い始めた。そこで急遽聖泉浴をとらせた結果、ミリンの目で白の判定を確認したためまずは問題なし。とどめにマーガレッタと同じく、教会から出向しているオンドーリア大司祭が行なった鑑定の奇跡でも、問題なしとのお墨付きをもらう。だれも見たことがない珍獣ラーゴを胸に、ミリンはマーガレッタを従え、自室、浴場、武具宝物庫展示室など終日城内を連れ歩いた。
日も暮れ、屋上で冬の夜空を眺めながら、母王がラーゴの鳴き声は後で聞きたいと言っていたのを思い出し、国王陛下の自室へ足を向ける。途中出会ったお抱えの魔術師から、王家の魔法の行使について意に沿わない講釈を説かれた後、母王の部屋に着いたミリン。そこでは重要人物たちが、王国最高会議至高評議の終了後、お茶を飲みながら私的な打ち合わせのまっ最中だった。メンバーは父王配はじめ、貴族最高の実力者で知恵者であるハーンナン公爵、そして教会軍のトップ勇者ゴードフロイ。公爵とは、飼育小屋の責任者クリムの父親だ。
ここでゴードフロイや、王国の諜報・隠密警護部隊 ── 影鍬の長カゲイから、今回の魔王討伐一部始終の報告を受けるミリン。アレサンドロの身に起きた、事件の子細を聞かされて一時泣き崩れる。
しかし、同時に至高評議でも議題になった、王国が現在直面する冬の食糧不足など数多くの問題も知っておかなければならない。そろそろ成人を迎える次期王位継承者として、身の引き締まるものを感じていた。そのうちミリンは、母王の部屋で寝落ちに近い状態となり、部屋に戻って眠りにつく。
翌朝、起床を告げに来てくれるはずの、専属メイド筆頭のグラリス ── やはり公爵の娘、五女でクリムの姉 ── が起こしに来ない。どうやら昨夜遅く、王都内の邸に父公爵とともに帰ったと知り、前々から予定されていた嫁入り支度に里帰りしたと気づいた。すぐにも自領へ戻ると聞き、最後に挨拶したかったミリンは、突然の外出を計画する。その目的は、冷血獣の病院兼保養地兼別荘とも言える、王配レオルド卿の王都内邸の飼育小屋へラーゴを連れて行くこと。ただしそれは口実で、ついでに公爵邸にも立ち寄り、嫁入りに備え里帰りするグラリスをねぎらうための、城からの外出だ。
だが従来ミリンのガーディアンであったアレサンドロが意識不明の今、いきなりミリンの外出が決まった王城ではてんやわんや。結果的に、教会軍の第一部隊司令官で腕利きのヨセルハイが指揮を執り、二十五人の精鋭部隊が編成される。だがそのころには、事情を察したレオルド卿が王城まで迎えに来ていた。すでにお昼前、ようやく父レオルド卿と、護衛隊指揮官ヨセルハイも異例に同席したキャリッジで、レオルド卿の王都邸へ向かう。
すっかりお気に入りとなったラーゴを胸に抱いて移動する途中、ミリンは昨夜遅く街中でも殺人事件が起こったことを知る。昨夜の話し合いで、その方面の事情に詳しい父から、王国の問題として挙がった闇社会の抗争によるものだ。国内組織ユニトータと国際マフィアが手を組み、レオルド卿も懇意である裏社会の顔役タオが、命を狙われていると聞かされた。
邸に着くなり、三つの卵を産んだ両足蛇の檻の中へ、連れて来たラーゴを入れてなじませ、早めの昼食も簡単に済ませる。ミリンは父と立ち聞きされない書斎で、裏社会事情など国家レベルの問題にかかわる密談だ。
王国には魔王城に比較的近い王家直轄地に、国内唯一とも言える輸入港ボコボがある。そのシステムのほとんどが、裏からユニトータに牛耳られているらしい。そうした状況を聞かされ、麻薬や魔法銃、麻薬強化人間といった危険なものが流入しつつあるとも教えられた。あわせて、レオルド卿が最近手に入れた魔法道具も疲労される中、アレサンドロのことも相談するミリン。その復活の手がかりを探すため、マーガレッタ近衛隊長が魔王城跡に行きたがっているようだ。
そんな話を聞いたミリンの心も、しぜん歴遊の旅へと誘われる。