表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/116

第〇一〇四話 アネクドート マフィアのナンバーワン キャプテン=ノターリン

 ノターリンはマフィア・マウントースシンジケートの、スリートップと呼ばれる頂点の一人であり獣人だ。事実上ノターリンはスリートップのうち最高位にある。他の二人アサハカリアン、チャイマスクを従属させ、組織の頂点に君臨していた。


「早急に、幹部を召集セーヨ。召集可能日時が決まったら、すぐに知らせるノーダ」

 獣人特有の訛りで、非戦闘系ソルジャー・ショッキーヤに幹部会議の招集を急がせる。

 ユニトータのような、二次組織(クリュー)の一つや二つどうということはない。問題なのは組織の力が、たかだか一国の王女の護衛を敗れなかった事実だ。

 いかにデバチーンの頭が緩く、棒を振る力が強いだけで成り上がった人間で、いなくなった事故が喜ばしい程度の幹部だったとしても。要は王国がマフィアを退けたと、尾鰭が付いて広まってしまうのが不具合なのだ。

 そんな事態になれば、現在わが組織とせめぎあっている、他の国家勢力に不要な勢いがつく。マフィアは恐れるに足らずといった風潮が流れることで、すべての計画の進行が足踏みさせられるかも知れない。同時に征服済みの国家からも、不要な反撃の可能性を彷彿とさせてしまうだろう。

 数少ない、王国への出入り口であるボコボの港。これが魔王島(ディアボライル)からの勢力圏内にあったため、今まで王国への侵攻は後回しにされてきたのだが、教会軍(カルタジニアス)によって魔王は倒された。

 いよいよわが組織により、北ハルンの地全土へその触手を大きく伸ばす、好機が到来したにもかかわらずだ。

 あの方も、この日のために様々な布石を打ってきている。他国において、急を要し行なわれている浸食以外は、その手を止めさせてもかまわない。

 今こそ北ハルン王国への攻略作戦を一気に進めなければ、現トップ層への不満が募ることも危惧された。そうでなくとも組織内は、上に立つ者の足下をさらってやろうと、狙っている輩ばかりなのだ。


( ── しかし、魔族(ディアボロス)は始末が悪いノーダ)

 ノターリンは考える。獣人は、魔族(ディアボロス)と相性が良くない。

 まだ脆弱でも人間に、立ち向かわせたほうがましだとノターリンは考えている。

 これは獣人と、人間の基本的能力の差に帰するものだ。獣人は基本的能力が高い分、魔法や脈などの不思議力を頼まない。そうした歴史しか持たないので、脈に頼った戦い方を発展させてこなかった。

 危険に対する察知能力が鋭いため、魔脈(ディアポラダー)を備える魔王が宿りつく土地に、国を築いたりはしないだろう。

 もし規模の小さいハザードがあるのも気付かず、たとえ領土内に魔王が蘇っても、まだまだ無力な間に滅ぼしてしまうのが族長だ。その程度のことができないなら、とても族長としては認められない。

 こうして獣人という標準的な戦闘能力が高い中で、さらに自分のように優秀な個体が生まれ、自分同様に成功した。

 しかし、間抜けな人間は平気で魔脈(ディアポラダー)を含む、または隣接した領域を国と成す。そして百年に一度蘇る魔王を退治してきた。だが標準レベルが断然低いため、戦うにも魔法や脈の力で補強する。

 あるいは圧倒的な力を授かって生まれた変異、超人(インクレディーズ)や、勇者(ブレイバリーズ)に頼ったりすることも必要だ。それらは魔族(ディアボロス)の力を上回り、魔王だけに効果を持つ攻撃力も備えていた。

(いや、獣人といっても例外もいるノーダ)


 大雑把に言って獣人は家族や仲間、あるいは義理人情を重要視する精神的にひ弱な種と、そうでないまともな獣人に分けて良い。前者は家族や仲間の助け合いを基盤として、族が集まり国を作る人間と似たような集団といえよう。ここには勇者(ブレイバリーズ)と呼ばれる存在も見受けられた。

 本来いう獣人(しゅ)は、組織のトップスリーこそまさに代表的なのだが、家族も種族もすべて敵と見なすものだ。そして殺るかやられるかという力のぶつかり合いで、互いを征して行く。

(その中には唯一例外もいるが、あれはそもそも獣人とはいえん。龍人などというのは規格外なノーダ)

 過去にはほぼ単騎で、無軌道に暴走する魔神をも屠った龍人は、地上最強とまでいわれながら、絶滅の危機に瀕しているらしい。かなり長い間に渡ってその(しゅ)の活躍は確認されておらず、おかげで自分たちの仕事も難なく進められてきた。


 人間やひ弱な獣人と比べると、弱い者にありがちな特殊な力を求めてこなかった本来の獣人たち。その結果国のような組織を作らず、魔法や魔族(ディアボロス)に対抗するいびつな能力というものを持たない。それらを必要とせず戦いぬき、勝利を得てきたからだろう。

 同時にそういったものに頼る闘い方を、弱い者がやることと蔑んでもきた。この結果と言えるものの、王国においては魔王の滅んだ今も、王国には魔の力が潜んでいる匂いがする。

 一般的に人であれ獣人であれ、王族という存在(もの)はその(しゅ)の力では到底立ち向かえないところで、同程度に脈の力の行使が可能だ。

 それらは種族の生活の維持、魔族(ディアボロス)や天災、異常気象など、発揮されるよう進化してきた。戦争や野盗の撲滅、内乱やテロなど、(しゅ)の本来の力で解決できることには、積極的に利用されていない。


 王国側の発表を拾った報告から、デバチーンを倒したと考えられるマーガレッタという女騎士がいる。その者こそ、特別な力を備えて生まれた勇者(ブレイバリーズ)と呼ばれる種類ではないだろうか。あるいは生まれつきの特殊能力を持つという、生来固有能力(ネイチャー)持ちかも知れない。

 これもほとんど、無能な人間にこそ多く見られる特徴であり、獣人にとっては魔族(ディアボロス)同様厄介なシロモノと言えた。

(そうなると強制排除部隊だけでは、すぐに動かせる駒が少なすぎる。最近支配下に置いた精神的にひ弱な獣人の国から、殺傷能力の高い生来固有能力(ネイチャー)が、備わった猛者を(たぶら)かしてきた。王家やそいつらの親族を質にして、襲わせるのが手っ取り早いかも知れん)

 ノターリンの組織に対し、麻薬強化人間(ナルコマンダー)や魔法武器などを提供してきてくれた、いわば黒幕。その御方(おんかた)が北ハルン王国攻略のためだけにと、特に念入りに手回しされてきた。そういった画策の中には、王国や王家を叩き潰してしまうほどの劇薬も含んでいるのだ。

 それではせっかくマフィアが王国を食い物にできたとしても、旨味は無いではないか。かつてそうした具申は行なったものの、国が潰れたからといって国民がいなくなるわけではない、と一蹴されている。


(あの気の弱い獣人の国にも、そんな手回しがなされたノーダ。報告によると、すでに王女襲撃の後詰めの策として、うまくだましたツワモノどもをこちらへ向かわせているはず ───)

 それほどあの方は、王国への怨念を持ってきたのだ。使わない手はないだろう。今は獣人のトップ幹部には手を出させず、まずは組織外の力や、人間種の生来固有能力(ネイチャー)持ち。さらには強制排除部隊を活用していこうと(くわだ)てるノターリンであった。


第二章 旅支度篇


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ