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第〇一八七話 ゆるキモトカゲのとんでも実験

 悪魔がいなくなっても、微小な魔脈(ディアポラダー)のエネルギーを取り込んで、いまだに機能は維持されているようだ。

 いや、これまで機能維持のためのエネルギーも、サタンが与え続けてきたものから頂戴してきたのだろうか。もしかすると、この城自体が魔力で作られた創作物であって、それを維持するには魔力が必要なのかも知れない、とラーゴは推測した。


(─ クロスがやってたのを見て理解してはいたけど、脈にエネルギー源を求めた術というのは、エネルギー源が続く限り、その術も有効なんだな)


 また機会があれば使ってみようと思うラーゴ。いや、いっそのこと今張った結界(オービチェ)も、ここの脈にエネルギー源を求めれば ── と考えてから、ここの魔脈(ディアポラダー)が枯渇していることを思い出す。


「魔王の脈は、必ず百年しないとよみがえらないのかな?」

「そうよ、魔王の脈はそれくらいの期間で、絶対蘇るものだから」


 ミリンも今から百年は生きてはいまい。そのときもいるのは、きっとマーガレッタくらいだろう。

 この世界では、百年たっても技術や武器などが、進歩したりしないのだろうか。少なくとも王国は過去百年、いや全世界がおよそ数百年という年月を、たいした技術進歩なしに暮らしてきていると思える。するとまた百年たてば、似たような問題が発生して、魔王の討伐が行なわれるわけだ。そのとき自分は生きているのか? トカゲの寿命などには通じないが、大きさからして長くても十数年程度だろう。しかし、魔族(ディアボロス)としての寿命はどうなるのかと思いながら、考えてもわからないことを追求するのは時間の無駄とあきらめる。

 なにしろ自分が魔族(ディアボロス)だと知っているのは残存魔族だけであるし、その残存魔族ですらラーゴはガレノスの二世と信じて疑わない。自分の寿命はどれくらいあるか、などと聞いたところで、まともな返事は帰ってこないだろう。実は『ニセイ』といっても『偽違(にせい)』のほうなのだが、それはおくびにも出せないので、今ここにこだわるのは、やめておくことにした。

 そのときラーゴはいつも通り、とんでもない思考に走る。


 この脈がもし、龍脈(デウサダー)と繋がったらどうなるのだろうか?


 それができるなら、自分の結界(オービチェ)をそこにつないで、魔王城(ディアボリオン)を今のまま保存し、隠ぺいできるとも思えた。あるいは自分を食べようとした魔王が、ここの魔脈(ディアポラダー)に復活することも不可能になるだろう。しかもクラサビの言葉通り、形を残してとりついているサタンが、魔法使いなら問題ない。だが人間の言うように、悪魔であるなら消滅させられるはずだ。そうすれば、サタンがアレサンドロにした、何かの効果がなくなって復活してくる可能性もある。つまり、奪われた記憶などが戻ってくれるかも知れない。


 しかし似て非なるものであると同時に、なんとなく相反するようにも思える、龍脈(デウサダー)魔脈(ディアポラダー)は繋げることができるのか?

 それを知っているのは、脈を司る者 ── パルスゴーストであろう。あの聖霊が万が一、まだ自分の預けた鱗の近くに居たら ── そう願いながらラーゴは、身体から離れた自分の鱗を、一つ一つ探して ── 見つけた。


「パルスゴーストさん。ボクの声が聞こえたら返事をして」

「はーい、パルスゴーストです」


 元気のいい返事が返ってくる。同時にパルスゴーストの様子が見えた。坑道(ジェノモケイヴ)にいるようだが、まわりにはクロスもほかの聖霊もおらず、一人きりになれる場所らしい。考えてみれば、パルスゴーストは常に飛翔しており、まるで相続者(インヘリター)記憶にあった、森の妖精のようないでたちである。たしか、チーフゴーストやオンゴーストといった聖霊ノームとは、別の種類だと聞いていたかも知れない。


 目の前で突然、独りしゃべり始めたラーゴを、クラサビは奇異な目で見るが、鱗を通じてウイプリーではないだれかと、会話していることに気づいたようだ。


「よかった、ボクの声が聞こえてますか?」

「なにをいってらっしゃるんだか。聞こえたからお返事さしあげたのでしょう?」

「そうだった。夜中にごめんね」

「聖霊には夜中もお昼もないわ。で、今日はなんの御用でしょうかしら? 我らがドミニオンマスターさま」

「ハハ……そうですね。そんなすごい名前をいただいてました」

「それはちがうわね。ドミニオンマスター様自身がそれだけの希少価値をお持ち、ということだと思うわ。聖霊が自ら仕えるものを選んだのは、歴史上なかった話なのよ。といっても、本当は昔、すべての聖霊にドミニオンマスターがいたから、そんな称号があるんだけどね」


 それほど重いものを、クロスの魅了の魔法で手に入れたのは心苦しい。せめて、称号持ち(ネイムド)が過去にいた前例のあることに、ラーゴはやや安堵した。


「そうなの? よかった、自分が最初じゃなくて」

「最初のほうが光栄だと思いますけど、まあいいでしょ。それで今夜は、何の御用だったのかしら」

「ごめんごめん、実は教えてほしいんだ。ボクは今、枯れた魔王の脈 ── 魔脈(ディアポラダー)でいいのかな?  ── の前にいるんだけど、これに龍脈(デウサダー)をつなぐと、どうなっちゃうのか教えてくれない?」


 尋ねられたパルスゴーストは、少し間を空けて答える。質問の意図を掴みかねたのだろうか。


「どうもならないわ。魔王の脈じゃなくなって、龍脈(デウサダー)に変わるだけよ。だって元々魔王の脈っていうのは、龍脈(デウサダー)と分断された個脈といってもいいの。元に戻るわけね」

「え、そうなの?」



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