隊長
硬く滑らかな感触の岩肌が
視界いっぱいに広がる。
草木は乏しく、
時折何かの虫の類が
迷惑そうに逃げていくのが見えた。
ひどく彩りの乏しい世界。
灰色に覆われた谷底を
少年たちは歩いていた。
前線を迂回し
進路を大きく東に取った少年たちは
王都へ向かう足を速めた。
谷の国は耕作に向く土地に乏しい、
決して豊かとは言えぬ国だ。
経済的な側面からも
魔物との戦いは
厳しいものとなっているようだった。
「……何か、
聞こえない?」
踊り子が不意に
そう言って足を止めた。
谷を渡る風に乗ってかすかに、
金属の打ち合う音と
悲鳴と怒号が聞こえる。
「行こう!」
少年がそう言い、
返事を待たずに駆け出す。
詐欺師たちは
慌てて少年の背を追った。
少年は走りながら剣を抜き、
駆けつけざまに魔物の一体を切り伏せる。
突然現れた新手に
魔物たちが警戒の声を上げた。
襲われているのは
谷の国の輸送隊であり、
襲っているのは
背に蝙蝠の羽根を生やした魔物たち。
前線から遠いこの地ですら
魔物の襲撃を受けている事実は
戦況が深刻である証だった。
「押し返せ!」
思わぬ援軍を得た谷の国の将が
機を捉えて叫ぶ。
その声に反応し
将へと牙を向けた魔物の首に
詐欺師の放った短剣が突き刺さった。
兵たちが大きく声を上げ、
魔物たちが動揺する。
踊り子の炎が数匹の魔物を黒炭に変え、
令嬢が幾つかの氷の彫像を作ったとき、
残った魔物たちは戦闘の継続を諦め、
高く空へと逃げ去った。
兵たちは生き残った安堵と
勝利の高揚を叫び、
空へと剣を掲げた。
「助力に感謝いたします。
旅の方」
輸送隊を束ねる将が
少年たちに謝意を示す。
よく言えば実直な、
悪く言えば融通の利かなさそうな、
生真面目そうな男だ。
詐欺師がさりげなく
将から顔を逸らせた。
将は怪訝そうな表情を浮かべ、
はたと何かに気付いたように息を飲むと、
「隊長!?
隊長殿ではありませんか!」
うるさいほどの大声でそう叫んだ。
詐欺師は心底嫌そうな顔で、
仕方なさそうに将に顔を向けた。




