谷の国
砂漠の国最大のオアシスから
魔物を駆逐した少年たちは、
その足を南東に向けた。
砂漠の国から草原の国をかすめ、
その先にあるのは谷の国。
竜の爪に大地が引き裂かれたかのような
五つの渓谷に人々が住まう、
古く、
そして厳格な気風の国だった。
旅の途上にある少年たちに、
遠く風聞が届く。
山の国は王都奪還に成功した後、
新王の負傷と相まってその勢いは翳り、
未だ国土の三分の一は魔物の支配下にある。
砂漠の国は若き王が
その妻たる『緋の舞い手』と共に
最大のオアシスを奪還し、
国内に檄文を飛ばしたという。
諸族は続々と若き王の許に集い、
反撃の機運は高まりつつあるが、
魔物を駆逐するほどの戦力には程遠く、
その支配域は一部に留まっていた。
王都が氷に閉ざされた水の国では、
王や主だった貴族たちが不在の中、
辺境を守る地方領主たちが
個別の戦いを強いられている。
領土的野心を抱く森の国の辺境伯が
混乱に乗じて水の国を併合せんと
画策しているとの噂もあり、
水の国は魔物と人、
両方から脅かされていた。
そして少年たちが向かう谷の国は、
今最も魔物の軍勢と激しく
戦いを繰り広げている国だった。
激戦の中で老王は戦死し、
後を継いだ末娘が
国を支えているという。
しかし戦時下において
若き女王は頼むに足らずと
諸侯たちの中で不和があるとも伝えられ、
戦況は厳しいようだった。
その話を聞いた詐欺師の顔が
わずかに曇った。
少年たちは谷の国の王都に向けて
その足を速めた。




