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死の谷

「マナよ。

 万物の意味の器よ。

 変質せしめよ。

 我が身をして、

 炎界の門となせ」


 炎を纏い、

 踊り子が舞う。

 青い燐光に包まれ、

 逆巻く風に髪が躍る。


「憤怒の王、

 起源と終焉を司る者、

 南方の主にして

 赤き秩序の獣よ。

 我が呼び声に応え、

 その霊威を示せ!」


 踊り子を覆う炎が膨れ上がり、

 踊り子の姿を隠す。

 炎は歪み揺らめきながら形を変え、

 やがて巨大な竜を形作った。


『火竜王降臨』


 緋の舞い手たる踊り子が得た加護は、

 わずかな時間ではあれ、

 四元の一たる火の秩序の守護者を

 現世に顕現させることを可能にしたのだ。

 オアシスを支配する

 獅子の頭に老人の顔を持つ獣は、

 火竜王の吐息に貫かれ

 為す術もなく燃え朽ちた。

 指揮者を失った魔物の群れは、

 火竜王の威容に怖れを為し

 逃散する。

 それを見届け、

 火竜王は炎に溶ける如く姿を消した。

 踊り子を包む炎が消え、

 よろけた踊り子を令嬢が駆け寄って支えた。




 日が落ち、

 オアシスに夜の帳が降りる。

 極度に消耗した踊り子は

 手近な民家の寝台に寝かされており、

 令嬢が付き添っていた。

 魔物に支配されていたオアシスに、

 生きた人間の気配はなかった。

 少年は遥か西の空を見上げる。

 このオアシスから一週間も西に行けば、

 魔王が拠点を構えるという

『死の谷』がある。


「行きたいか?」


 詐欺師が少年の背に声を掛けた。

 少年は振り返る。

 その顔には戸惑いと迷いがある。


「死の谷には魔王の宮殿があるという。

 行って魔王を討てば、

 戦いは終わるだろうな」

「戦って、

 勝てると思うか?」


 少年の問いに

 詐欺師は首を横に振った。


「だが、

 一矢報いる

 くらいはできるだろうぜ」


 少年は再び西の空に目を向けた。

 砂漠の風がかすかに

 死の谷から不吉な風を運んでくる。

 やがて少年は

 詐欺師のほうに向きなおり、


「死ぬよりも

 まだできることがあるだろう」


 自らに言い聞かせるようにそう言った。

 詐欺師は満足そうにうなずく。

 そして少年に近付くと、

 乱暴に頭を撫でた。


「魔物に脅かされている国はまだある。

 気負うなよ。

 できることをすればいい」


 迷惑そうに顔をしかめ、

 少年は詐欺師の手を払った。

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