過去
パチパチと薪が弾け、
砂漠の夜を照らす。
踊り子はぼんやりと
炎を見つめていた。
詐欺師は毛布にくるまり
寝息を立てている。
令嬢は星を見上げていた。
少年がためらいがちに
声を掛ける。
「これから、
どうする?」
踊り子は苦笑いを浮かべた。
「事情を聞こうとは
思わないのね」
少年はバツの悪そうに
目を逸らせた。
「隠すほどのことじゃないのよ。
言うほどのことでもない。
どこにでもあるような姉妹の話」
そして踊り子は
ゆらめく炎を見つめたまま
ぽつりぽつりと
話し始めた。
踊り子と妹は
砂漠の国の五大氏族の
族長の家に生まれた。
氏族長の家系の女児は
緋の舞い手の候補として
舞いと炎を操る術を
徹底して叩き込まれる。
二人もその例外ではなく、
幼少期から自由のない生活を送った。
「私は、
あんまり苦痛だとは
思わなかったんだけどね」
踊り子は舞いと魔術に才を示し、
次代の緋の舞い手としての期待を
一身に集めた。
一方の妹は、
決して凡庸ではないものの、
姉と比較されればその実力は
見劣りせざるを得ないものだった。
どれほど努力を重ねても
姉に及ばぬ悔しさは、
やがて憎しみへと変質していった。
「緋の舞い手は、
王の妻になるっていう
掟があってね」
火竜王の巫女たる緋の舞い手を
妻とすることにより、
王は世俗の支配者と認められる。
次代の王となるべき相手とは、
幼き日より交流を深めてきた。
やがて踊り子が
その舞いと魔術において
他に比肩しうる者のないほどの力を示し、
緋の舞い手の後継として
誰もが認識し始めたころ、
踊り子は妹が
次代の王たる青年に
恋心を抱いていることを知った。
そして踊り子は、
国を出て旅の踊り子となった。
「身を引いた、
ということですか?」
令嬢が興味深げに
口を挟む。
踊り子は小さく首を傾げた。
「どうだろう?
私はぼんやり
彼の妻になるのかなって
思ってたけど、
彼のことが好きだったのか、
それとも義務感だったのかは
よく分からない。
ただ、
国を出ることを迷いはしなかったわ。
だからきっと、
それだけの想いだったってこと」
国を捨て、
責務を捨て、
ただの踊り子として
旅を続ける中、
魔物の軍勢が砂漠の国を襲い、
故郷が滅んだことを知った。
しかし踊り子は
国に帰るつもりはなかった。
緋の舞い手が魔物に
命を狙われていることを知るまでは。
「あの子は私を憎んでいるけれど、
私はあの子を大切に思っているわ。
だから戻ったの。
あの子を死なせないために。
だけどそれは、
きっとあの子にとっては
とても許せないことなのでしょうね」
緋の舞い手の名を奪った姉を
妹は許さないだろう。
踊り子はそう言った。
そして気持ちを切り替えるように
小さく息を吐いて、
そして言った。
「これから、
この国で一番大きなオアシスを
解放しに行こうと思う。
そうすれば、
あとは各氏族の戦士たちが
この国を取り戻してくれるでしょう。
手伝ってくれる?」
少しだけ弱々しい踊り子の言葉に、
少年ははっきりとしたうなずきを返した。




