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緋の舞い手

 踊り子は祭壇の前に割って入り、

 娘の舞いを継ぐ。

 竜の炎が放たれ、

 踊り子に襲い掛かった。

 娘が息を飲む。

 若き王のリュートが止まった。

 炎に包まれた踊り子の影は

 舞いを続けている。

 やがて炎は渦を巻き、

 歪み、

 圧縮され、

 踊り子を彩る緋色の装束となった。

 踊り子の肌は火傷の跡もなく、

 わずかな汗さえ浮かんでいない。

 踊り子が身を翻すたび、

 身にまとう緋色の装束は

 その美しさを増していく。


『見事

 我が炎を従えた。

 汝、

 緋の舞い手なり!』


 竜の宣言を合図に、

 踊り子を包む緋色の装束が

 踊り子の肌へと

 吸い込まれるように消えた。

 同時に祭壇の竜の姿も、

 揺らぎ、

 揺らめき、

 大気を歪ませ、

 消えた。

 神殿に満ちていた

 凄まじいまでの熱量が

 霧散する。

 踊り子は舞いを終え、

 振り返ると、

 大きく息を吸い、

 周囲を囲む魔物に向かって

 叩きつけるように叫んだ。


「聞け!

 魔物どもよ!

 火竜王の加護を受け、

 炎を従えしは我なり!

 緋の舞い手を継ぎしは我なり!

 心せよ!

 炎を以て

 汝らを焼き尽くすは

 我より他におらぬことを!」


 魔物たちの敵意と憎悪が

 一斉に踊り子に向けられる。

 踊り子は平然とそれを受け止め、

 小さく呪文を唱えた。

 踊り子の背に

 炎を纏った翼が現れる。

 踊り子は勢いよく

 翼をはためかせ、

 空へと舞い上がった。

 その吐息は炎となり、

 魔物たちを焼き尽くしていく。

 数分も経たぬうちに、

 神殿を囲む魔物たちは

 ことごとく灰となった。

 火竜王の加護の力に圧倒され

 兵たちが呆然と踊り子を見上げる。

 翼で一度だけ強く大気を打ち、

 踊り子は地面に降り立った。


「ねえ、さま……」


 あえぐように娘が声を絞り出し、

 踊り子に呼びかける。

 踊り子は表情のない顔で

 娘を振り返った。


「どうして――」


 かすれた声で娘は問う。


「――ごめんなさい」


 踊り子はそう言って目を伏せた。

 責めるように、

 切りつけるように

 娘は叫ぶ。


「どうして姉様はいつも、

 私からいつも奪う!」


 踊り子はうつむき、

 力なく首を振り、

 そして娘に背を向け、

 歩き出した。

 踊り子の背を、

 娘の責める声が容赦なく打ちすえる。


「――ごめんなさい。

 でも私はあなたから

 何も奪うつもりはなかった」


 踊り子のつぶやきが

 砂漠の風に溶けて消える。

 娘はずっと

「どうして」と泣き叫び続け、

 踊り子は訣別を示すように

 一度も振り返ることはなかった。

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