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独白
『狂魔の笛』は、
下級の妖魔を暴走させ、
意思を奪って意のままに操る魔法具である。
いくらでも悪用できるその性質から、
すべての国で流通販売が禁じられている。
領主は『狂魔の笛』を使って魔物に町を襲わせ、
それを自ら撃退することで、
領民の支持を得ようと企てたのだった。
詐欺師は領主の目の前で、
『狂魔の笛』を床に叩きつけた。
思いのほか澄んだ音を立てて
『狂魔の笛』が砕け散る。
領主は笛の破片を呆然と見つめ、
独り言のようにつぶやいた。
「家臣も、領民も、誰も、
年若い私の言うことをまともには取り合わぬ。
でも、あの日、
町の近くに現れた魔物を追い払った日、
皆が初めて私を見た。
魔物を退けるたび、
以前よりもっと、
皆が私を見てくれるのだ。
話を、聞いてくれるのだ」
詐欺師は領主から巻き上げた宝石を皮袋にしまうと、
少年を促して領主の屋敷を後にする。
領主は二人がいなくなったことにも気づかぬように、
独り、つぶやき続けている。
「私は、これからどうすれば……」