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 遠くからかすかに

 戦いの音が聞こえる。

 風に乗り

 血と死の匂いが砂を渡る。

 踊り子は常ならぬ厳しい表情で

 何も言わずに独り、

 駆け出した。

 少年たちは慌てて

 踊り子の背を追った。




 小さなオアシスは

 魔物の群れの襲撃を受け、

 苦しい戦いを強いられているようだった。

 魔物はオアシスの規模に不似合いなほど多く、

 城壁を越え、

 あるいは破壊せんと蠢いていた。

 城壁の上には若き王が

 自ら三日月刀を振るい、

 兵たちを鼓舞している。

 そしてその傍らには、

 赤と白を基調とした巫女装束に身を包む

 まだ少しだけ幼さを残した若い娘が、

 炎を操り魔物を退けていた。

 娘の姿に目を留めた踊り子が、

 複雑な表情を浮かべる。

 そして魔物に怒りを吐き出すように

 呪文を唱えた。


「マナよ。

 万物の意味の器よ。

 変質せしめよ。

 我が影をして

 火の竜王の(あぎと)となせ!」


 砂漠に伸びる踊り子の影が

 歪み

 うねり

 その姿を竜へと変える。

 影の竜は大きく顎を広げ、

 魔物の影に喰らいついた。

 竜に影を喰われた魔物が

 影と同じ場所を抉られて絶命する。

 無防備な背後を突かれ、

 魔物たちが慌てふためく。

 少年と詐欺師が魔物に切り込み、

 動揺に拍車をかけた。

 令嬢は少年たちの後ろから

 守りの魔法で援護していた。

 魔物の混乱を見て取った若き王は、

 城兵に命じて混乱した魔物への

 攻撃の集中を命じる。

 挟撃を受けて恐慌をきたした魔物の群れは

 やがて戦意を失って逃散した。

 小さなオアシスはかろうじて

 魔物の襲撃を退けることに成功したのだ。




 オアシスの門が開き、

 若き王と巫女装束の娘が

 恩人を出迎えるべく姿を現す。

 王の後ろには砂漠の精強な兵たちが

 喜びと喝さいを少年たちに向けた。

 少年たちが王の前に進み出る。

 王と娘はにこやかに少年たちを見渡し、

 踊り子に目を留めたところで、

 その表情が凍り付いた。

 信じられぬものを見るように

 目は大きく見開かれ、

 瞬きすら忘れている。

 踊り子は居心地の悪そうに

 顔を逸らせた。

 娘がかすれた声で

 呆然とつぶやく。


「ねえ、さま……」


 踊り子は困ったような笑みを浮かべて

 娘をバツの悪そうに見返した。

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