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疑惑

 野営の準備のため

 少年たちはそれぞれに

 別れて行動していた。

 令嬢は火を起こすための

 枯れ枝を集めている。

 するとそこに、

 水を汲みに行ったはずの

 詐欺師が姿を現し、

 令嬢に声を掛けた。


「山の国に嫁いだ叔母には、

 会うことができたかい?」


 令嬢は顔を上げ、

 小さく首を横に振った。

 詐欺師は皮肉げに口の端を上げる。


「だろうな。

 存在しない人間に会うことはできない」


 令嬢は不思議そうに首を傾げる。


「何をおっしゃっているのでしょう?」


 詐欺師は答えず、

 物騒なものを含んだ声で

 鋭く斬りかかるように言った。


「あいつに、

 何をさせるつもりだ」

「ご質問の意味が分かりません」

「とぼけるなよ。

 『予言の勇者』の噂を広めたのは

 お前だろう」


 令嬢は否定も肯定もせず、

 表情の読めぬ顔で詐欺師を見つめる。


「『予言の勇者』の噂は

 オレも耳にしたことがあった。

 だが最初は、

 もっと漠然とした情報だった。

 『予言の勇者』の性別も年齢も、

 三人の従者と旅をしていることも、

 噂には無かった。

 それらが噂に含まれたのは、

 お前がオレたちの旅に加わった後だ」


 令嬢は困ったように目を伏せた。

 詐欺師の瞳が冷酷な色を帯びる。


「言え。

 あいつを『予言の勇者』に仕立てて、

 何をさせようとしている。

 返答次第じゃ――」


 詐欺師は腰の短剣を抜き、

 その刃を令嬢に突き付けた。


「――この場で殺す」


 うーん、とうなり、

 令嬢は危機感のない様子で答える。


「お二人にはどうお伝えするおつもりですか?」

「言い訳はできるさ。

 死体さえ見つからなければな。

 ここなら死体を隠す場所は

 いくらでもある」


 明確な殺意が周囲に満ちる。

 令嬢はあいまいな微笑みを浮かべる。

 詐欺師が令嬢に一歩踏み出し――


「ちょっと、

 二人ともなにサボってるの!」


 踊り子の緊張感のない怒声に

 危うい空気が霧散する。

 小さく舌打ちをして

 詐欺師が短剣を収めた。


「なに、

 どうかした?」


 奇妙な雰囲気を察したのか、

 踊り子が訝しげな表情を浮かべる。

 何でもない、と答え、

 詐欺師はその場を後にした。

 踊り子が不満げにその背を見送る。

 詐欺師が去ったことを確認し、

 踊り子は令嬢を振り返った。

 迷いと躊躇いがその目に浮かぶ。


「……あなたも、

 早く戻ってくるのよ?」


 令嬢は穏やかに微笑み、

 うなずきを返した。


「……うん」


 踊り子は自らを納得させるようにうなずき、

 野営の場所へと戻っていった。

 令嬢は無言で佇む。

 そして藍色に染まる空を見上げ、

 ぽつりとつぶやいた。


「思うほど

 馬鹿ではない」

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、いや、ダメ(ビクン♡ビクン♡) いやー、こーゆーの、大好物でしゅ♪(ジュルリ)
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