離脱
王都は目前に迫り、
兵の士気と人々の期待が
頂点に達する中、
少年たちを取り巻く状況は
静かに変化していた。
兵たちが
魔物の追撃を命じる将よりも
少年の言葉を優先した事実は、
諸将、
とりわけ朱峰将軍の警戒を招いた。
『予言の勇者』への諸将の態度は硬化し、
軍の中に奇妙な緊張が生まれていることを、
詐欺師は感じ取っていた。
「軍を離れる!?」
深夜、
少年の天幕を訪ねた詐欺師が告げた
唐突な言葉に、
少年は思わず声を上げた。
詐欺師が人差し指を口に当てる。
少年は慌てて声を抑えた。
「……なぜだ?
もうすぐ王都を取り返す、
今が一番重要な時だろう」
納得できぬ様子の少年に、
詐欺師は静かに答える。
「お前が王になるというなら
このまま戦うべきだろうがな」
少年の表情が理解できぬと主張する。
詐欺師は軽く肩をすくめた。
「王都を取り戻すのは
王でなくてはならんということさ。
王都奪還の戦にオレたちが加わり戦果を挙げれば、
『予言の勇者』こそ王にふさわしいと
言いだす者がでかねない。
『予言の勇者』は名声を集め過ぎたんだ」
にわかには信じられぬと
少年が戸惑いを浮かべる。
詐欺師はやや苦い表情で言った。
「『予言の勇者』は新王たちにとって、
今や邪魔な存在だ。
奴らにとって一番いい筋書きは、
『予言の勇者』が王都奪還作戦で
討ち死にすることだろう。
となれば――」
詐欺師は右手を刃に見立て、
少年の首に押し当てた。
「奴らは戦の最中に
お前を謀殺する」
少年が目を見開く。
詐欺師は言葉を続けた。
「逃げるタイミングは今しかない。
オレたちに
この国の礎になってやる義理はないさ。
幸い今夜は
星も月も雲が隠してくれてる。
闇に紛れてズラかるとしようぜ」
少年は目を伏せ、
迷いを吐き出す。
「俺たちがいなくて
勝てるのか?」
詐欺師は面白そうに口の端を上げた。
「ずいぶん自己評価が高いじゃないか」
「そういうわけじゃ……」
少年はバツの悪そうに言いよどんだ。
詐欺師は表情を改める。
「言ったろう?
王都を取り戻すのは
王でなくてはならない。
新王は王たる器なのだと、
国の内外に示さなきゃならんのさ。
何者とも知れぬ
『予言の勇者』なんぞの
助けがなければ何もできない、
なんて思われたら、
魔物を駆逐した後の統治は
覚束ない。
この戦の主人公は
新王なんだよ。
結果が悲劇であろうと
なかろうと」
少年は口を閉ざし、
詐欺師を見つめる。
理解はできても
納得はできない。
新王を見捨てるような
後ろめたさに近いものを
感じているようだった。
詐欺師は軽く少年の肩を叩いた。
「荷物をまとめろ。
二人を叩き起こして
ここを出るぞ」




