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祠
新王軍の『快進撃』は続き、
山の国の半分近くが
すでに解放されている。
王都奪還の機運はいよいよ高まり、
決戦が間近に迫っていることを
人々に伝えていた。
民衆の熱狂と
新王たちのひりつくような緊張が交錯する中、
令嬢は独り、
解放されたばかりの小さな町の外れにいた。
そこには無残に打ち壊された
祠の残骸が横たわっている。
傷痕も真新しいその祠は、
地竜王を祀る巫女が
祈りを捧げる場所だった。
しかし巫女の血脈は絶えて久しく、
打ち壊されるはるか以前から、
誰に顧みられることもない。
細く月が照らす闇の中で、
令嬢が祠の残骸に手をかざすと、
破壊される前の祠の姿が
幻影の如く風景に重なった。
令嬢は揺らめく祠の入り口に
足を踏み出す。
そして幻に溶けるように
祠の中に姿を消した。




