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揺らぐ
兵たちが歓声を上げる。
魔物たちが算を乱して逃げていく。
戦いの手ごたえのなさに、
詐欺師は渋面になった。
「遊ばれてるな」
踊り子が不思議そうな顔を作る。
「どういうこと?」
「こっちを持ち上げてやがるのさ。
おだてて調子づかせて油断させて、
噛みつく機会を伺ってる」
詐欺師は空を見上げる。
鳥型の魔物が空を行き交い、
ただ飛んでいるように見えて
逃げる魔物たちを誘導しているようだった。
詐欺師は少年に目を向ける。
少年は剣を握り締め、
逃げた魔物の背を見つめていた。
少年は常に最前線に身を置き、
数多の魔物を屠った。
魔物は仇であり、
絶対悪であり、
許されざるべきもの。
そうでなければならなかった。
そうであるはずだった。
しかし、
少年の耳にあの声が響く。
『恥を知るがいい、人間よ!』
鷹人の放った言葉は、
少年の心を深く穿った。
罪なき少女を排斥する者たちに、
鷹人は強い怒りを向けていた。
弱きを虐げる者たちに憤り、
苦難に耐える者に同情する心を、
魔物がもし持っているなら――
少年は固く目を閉じ、
強く首を横に振った。
魔物は敵。
魔物は故郷を滅ぼした怨敵なのだ。
胸を焦がす憎しみが、
少年に『考えるな』と囁いていた。




