月下
夜は更け、
地上を無慈悲に月が照らす。
武人の城にはややそぐわぬ、
彩り鮮やかな庭園の隅で、
新王は独り座っていた。
令嬢は普段と変わらぬ様子で
新王に近付く。
「こんなところにいらっしゃったのですね」
令嬢を見上げ、
新王は微かに微笑む。
「誰にも言わないでくれないだろうか」
令嬢もまた微笑みを返し、
静かに問うた。
「おそろしいのですか?」
「おそろしいとも」
新王は視線を落とし、
自らの膝を見つめる。
「見よ。
今頃になって震えている」
令嬢は小さく首を横に振った。
新王はうつむいたまま
つぶやくように言った。
「私の嘘を皆が信じた。
いつ化けの皮が剥がれるかと思うと、
夜も眠れぬ」
「ならば嘘を真になさいませ。
それが怯える未来を克服する
唯一つの道」
事も無げに言う令嬢に
新王は苦笑する。
「簡単に言ってくれる」
新王は顔を上げ、
令嬢を見上げた。
「山の国の王妃に
興味はないか?」
令嬢はわずかに目を見開いた。
しかしすぐに、
無言で首を横に振る。
新王は答えを予期していたように、
そうか、とだけ答えた。
新王は月を見上げる。
令嬢もまた、
月を見上げた。
「貴女は……」
言いかけ、
新王はためらいを顔に表し、
口を閉ざす。
沈黙が辺りを包み、
やがて新王は再び口を開いた。
「……世界を、
救うおつもりか?」
新王は令嬢の横顔を見つめる。
令嬢は月を見上げたまま答えた。
「世界を救うのは
私ではございませぬ」
「あの少年か?」
新王は尋ねる。
令嬢はうなずいた。
「そうか」
新王はポツリとつぶやく。
「過酷だな。
貴女も、
あの少年も」
令嬢は首を横に振る。
「私など、
比べものになりませぬ」
新王は月を見ている。
令嬢も月を見ていた。
二人は無言で、
ただ静かに
月を見上げていた。




