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待ち伏せ
鬱蒼とした森を
少女は迷いなく駆ける。
やがて視界に
小さな洞窟の入り口が
姿を現した。
「……ここ」
少女は洞窟の中を指さす。
詐欺師はわずかに眉をひそめた。
少年は剣を抜き、
慎重に洞窟に近付く。
踊り子が少年に続き、
令嬢は興味深そうに、
王子は恐々と、
踊り子の背に隠れて洞窟を覗く。
少女が洞窟の傍を離れた。
詐欺師は耳を澄ませている。
少年は洞窟に一歩踏み出し――
「上だっ!」
詐欺師の声が鋭く響き、
頭上から矢が放たれる。
少年と詐欺師は迫る矢を斬り払い、
踊り子は自らと、
令嬢と王子の頭上の矢を、
かろうじて焼き払った。
王子が情けない悲鳴を上げ、
令嬢は頭上を見る。
「待ち伏せ、でしょうか?」
「読まれてたってことね」
令嬢を背後にかばう位置に移動し、
踊り子が唇を舐めた。
詐欺師が王子に駆け寄る。
少年が短剣を放ち、
くぐもった声を上げて
一体の魔物が地面に落ちた。
踊り子の目が妖しい光を放つ。
「マナよ。
万物の意味の器よ。
変質せしめよ。
吐息をして
火竜の燃える息吹となせ」
踊り子の吐息が炎となり、
樹上に隠れる魔物をあぶりだす。
――バサッ
大気を打つ羽音と共に、
炎を割り、
鷹の頭を持つ獣人が
少年たちに襲い掛かった。




