王子
山の国はその名の通り、
国土の大半を山岳が占める。
少年たちは険しい山道を
ゆっくりと進んでいた。
令嬢の体力を考えれば
先を急ぐことは難しい。
少年は焦燥に耐えるように
唇を結んでいる。
令嬢は文句の一つも言わず
歩き続けているが、
その華奢な身体には
この山道は過酷であるようだった。
「ちょうどいい。
そこで休憩しよう」
詐欺師が今日
何度目かの休憩を提案する。
その視線の先には
すでに打ち棄てられて久しい
廃教会があった。
まだ大丈夫だと強がる令嬢を
踊り子がなだめ、
一行は廃教会の朽ちた扉をくぐった。
「だ、だれだっ!?」
薄暗い廃教会の中、
一行を出迎えたのは
若い男の怯えた声。
説教壇から顔だけを覗かせ、
その瞳には寄る辺ない不安が揺れている。
どこにでもいる、
どちらかと言えばみすぼらしい姿。
しかし詐欺師は、
血色の良さや髪の艶、
そして日焼けの跡もない肌から、
この若者が貴人であることを察していた。
「ここは主なき廃教会。
旅の途上に身を寄せたとて
許されましょう。
貴方様こそ、
尊きお方とお見受けするが、
どうしてこのような場所に?」
常にない口調でしゃべる詐欺師に、
若者は嬉しそうな、
にやけた顔を作ると、
すぐに首を横に振った。
「わ、私は尊き身分などではない」
少年たちは互いに顔を見合わせる。
関わるべきか、
捨ておくべきか。
するとじっと若者の顔を見ていた令嬢が、
緊張感のない声で言った。
「貴方様はもしや、
王太子殿下ではありませんか?」
少年たちが一斉に
王太子と呼ばれた若者を見る。
若者は引きつった笑いを浮かべ、
どうしてよいか分からないと言うように
少年たちを見つめ返した。




