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夕刻

 日は沈みつつあり、

 町に藍色が降る。

 宿の入り口の前で、

 少年と詐欺師と踊り子が話をしている。


「いくらなんでも遅すぎる。

 変なことに巻き込まれてるんじゃないのか?」


 少年が心配そうに言う。

 詐欺師が同調するように頷いた。


「最初に会った時も

 余計なことに首を突っ込んでたからな。

 ご令嬢に何かあったら、

 俺たちの『送り届けてがっぽり』計画が早くもパァだ」

「そういう本音はもう少し

 包み隠しておきなさいよ」


 踊り子があきれたように詐欺師に言い、

 そして独り言のように呟いた。


「そんなにバカな子じゃないと思うけど……」


 考え込む踊り子の背に、

 どこか間延びしたような声が届く。


「あら、みなさま、

 こんなところに集まって、

 どうかなさいましたの?」


 三人が一斉に声の主に顔を向ける。

 そこには、

 簡素な旅装に身を包んだ令嬢の姿があった。

 令嬢はもともと着ていた、

 目立つ上に動きづらい服を売り払い、

 質は良いが地味な旅装に着替えていた。

 もっとも、その金の髪と容貌は、

 どんな服装であろうとも人目を引いてしまうようだが。


「どうかしたのじゃないわ。

 こんな時間まで出歩いて。

 心配するでしょう?」


 あきれ交じりに踊り子が令嬢を諭す。

 少年は少しばかり厳しい顔を作って言った。


「いったいどこへ行っていたんだ?」

「それが……」


 令嬢は言い難そうに目を伏せ、

 そして意を決したように口を開いた。


「とてもきれいな蝶々を見つけましたの。

 見たこともないほどきれいな蝶々でしたのよ。

 それで、その、どこに行くのかと、

 ついて行ったら、気が付けば町の外れに」

「町の外に出たのか?」


 あまりのことに詐欺師が声を上げる。

 令嬢は必死に弁明を続けた。


「で、でも、でも、

 迷子になったわけではありませんのよ?

 帰り道はきちんと把握しておりましたし、

 日が落ちる前に宿には戻れるくらいの距離だと、

 ちゃんとわかっていたのですもの」


 すべて計算通りだったのだと、

 令嬢は沈みゆく太陽を指さした。

 確かにまだ、

 太陽は沈み切ってはいない。

 三人は一様に、

 疲れた様子で深いため息を吐いた。


「まあ、

 無事ならいいわ、もう」


 時間を空費したときに感じる、

 何とも言い難い徒労感が辺りを包む。

 令嬢は申し訳なさそうに俯いた。


「明日の朝にはここを発つ。

 準備は今日の内に済ませてくれよ」


 詐欺師が令嬢にそう告げ、

 四人は各々、

 宿の自分の部屋に戻った。

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