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愚痴

「いらっしゃい」


 この町唯一の酒場に、

 落ち着いたマスターの声が響く。

 まだ日も落ちていないというのに、

 酒場には何人かの客が管を巻いている。

 彼らは新しく入ってきた

 見慣れない客を見やり、

 そして目を見張った。

 簡素な旅装に身を包んだ、

 金の髪の美しい少女。

 どこからか、

 ひゅう、という品のない口笛が上がる。

 少女は周りの好奇の視線を気にする風もなく、

 カウンターに座った。


「ワインを」


 注文を受けたマスターが

 少女の前にグラスを置き、

 ワインを注ぐ。


「こう言っちゃなんだがね。

 それを飲んだらすぐに帰りな。

 この辺りはあんまりガラが良くないんだ。

 あんたみたいな女の子が、

 フラフラしていい場所じゃない」


 代金を受け取りながら

 マスターが少女に囁く。

 グラスを傾け、

 少女は意外そうに答えた。


「この町は治安が良いと聞いていましたが」


 マスターは苦い顔でため息を吐く。


「以前はな。

 魔物が隣町に続く街道にでるようになって、

 人の出入りが極端に減っちまってなぁ。

 ここは行商人相手の商売でもってるような町だったから、

 あっという間にみんな失業さ。

 今じゃ、いい若いもんが昼間っから酒喰らってるよ」

「魔王が現れてから、

 魔物の動きが活発になっているとか」


 少女の相槌に、

 マスターの喋りが勢いを増す。


「そうなんだよ。

 まったくほんとに勘弁してほしいよ。

 こんな小さな町をいじめて、

 魔王はいったい何がしたいんだか」


 同意するように頷き、

 少女がワインに口をつける。

 そして何か思い出したように口を開いた。


「こんな噂をご存知ですか?」

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