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買ってきた

 踊り子は軽くため息を吐き、

 諦めたように首を振った。


「あんたが私に本音を言うはずないか」


 詐欺師は心外そうな表情を作った。


「なんだよ。

 オレが善良でも慈悲深くもないって言いたいのか?」

「善良で慈悲深い人間は詐欺師なんてやらないでしょ」


 くだらない、と鼻を鳴らして踊り子が言う。

 詐欺師はにやにやと笑いながらそれに答えた。


「そりゃ逆だぜ?

 今は善良で慈悲深い人間ほど、

 嘘を吐く時代さ。

 彼らは世の人々に生きることの素晴らしさや

 輝かしい未来を説き、

 理不尽や不条理を己の内に抱え込む」


 はいはい、とうんざりした顔で、

 踊り子はヒラヒラと手を振る。


「で、時間を稼いで結論は出たの?」

「なんにも」


 詐欺師は軽く肩をすくめた。


「山の国へ行くのはあいつの意思だし、

 これはあいつの旅だからな。

 結局、オレ達ができることなんて

 傍で見守ることぐらいなんだろうさ」


 詐欺師は体をひねり、

 窓の外に目を向ける。

 太陽は中天をはるかに過ぎ、

 いくつかの露店が終い支度を始めている。

 そして人々の間を縫うように、

 手にリンゴを抱えた少年が走っている姿が見えた。


「ま、今から宿を引き払っても

 日のあるうちに次にゃ着かねぇ。

 明日の朝にここを発つってことでいいだろう?」


 軽く手を上げ、踊り子が了承の意を伝える。

 バタバタと階段を上り、

 廊下を走る足音が聞こえる。

 やがてガチャリと扉が開き、


「買ってきた」


 少年が腕に抱えたリンゴを二人に見せた。

 詐欺師と踊り子は少年のその仕草に、

 思わず吹き出し、笑い声を上げた。


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