時間稼ぎ
「あー、
背中がかゆいなぁ」
「わかった」
宿場町の安宿の二階にある一室で、
詐欺師がベッドに横たわり、
少年は詐欺師をかいがいしく世話している。
踊り子はあきれ顔でその様子を見ており、
令嬢は部屋にいることに飽きて散歩に出かけている。
「あー、
喉が渇いたなぁ」
「わかった」
少年が無駄のない動きで詐欺師に水差しを渡す。
さながら、
無能な主人に仕える有能な執事、
といった風情だった。
魔物と商人の取引現場での戦いから三日。
令嬢の治癒の力で詐欺師の傷をふさいだ後、
少年は詐欺師を背負い、
次の町の宿へと飛び込んだ。
翌朝には詐欺師は、
動くことも食べることもできるようになっていたが、
少年は安静にするよう強硬に主張し、
彼らの旅は思いがけぬ足止めが続いている。
令嬢の治癒の技は見事なもので、
詐欺師は怪我の後遺症もなくピンピンしているが、
その肩にはうっすらと白い傷跡が残っている。
少年はそれを気に病んでいるようだった。
「あー、
なんか果物が食べたいなぁ」
「買ってくる」
放たれた猟犬のように、
少年は部屋を飛び出していく。
ベッドの上でゴロゴロとしながら尻を掻く詐欺師に、
踊り子はヘドロを見るような視線を向けた。
「いい加減にしなさいよ。
調子に乗りすぎなんじゃないの?」
トゲのある踊り子の声に、
詐欺師は横になったまま、
ゴロンと踊り子の方に体を向ける。
「あんたはあの子に世話してもらわないと
何もできないような大怪我人じゃないでしょ?」
詐欺師は真剣な眼差しで踊り子を見つめ返す。
相変わらず、横になったままではあったが。
「あんたの言うことは正しい。
でもな」
詐欺師は言葉を切り、
たっぷりと間を取った後で言った。
「オレはもう少しこのまま
だらだらちやほやされて過ごしたい」
「ほんっとにクズだなこのヤロウ」
踊り子の素直な感想に
喉の奥でクククと笑って、
詐欺師はベッドから体を起こした。
「冗談だよ。
そういう気持ちもないじゃあないがね」
体をほぐそうと大きく伸びをして、
首や肩を回しながら、
詐欺師は言った。
「ちょっとした時間稼ぎさ」
「時間稼ぎ?」
怪訝な顔を向ける踊り子に、
詐欺師はアゴでテーブルの上を示した。




