応報
夜が明け、
小さな町に続く街道に、
一人の商人の姿があった。
昨夜、
訳の分からぬ連中に突然襲われ、
商売相手を皆殺しにされてしまった。
彼自身も殺されかけたが、
連中はなぜか仲間割れをはじめ、
彼はその隙になんとか逃げることができたのだ。
重い足を引きずりながら、
商人は町へと入った。
稼いだ金は奪われてしまったが、
彼には今までに儲けたかなりの額の貯蓄と、
なにより町人たちからの信頼がある。
魔物が街道に出没しなくなったことが知れ渡る前に、
もうひと稼ぎもふた稼ぎもできるはずだった。
「来たぞ!」
町の広場から、
鋭く叫ぶ声が聞こえる。
広場に集まる多くの人々が、
一斉に商人を振り返った。
商人は人々に応えようと軽く手を上げ、
そして表情をこわばらせた。
人々が商人を見る目には、
明確な憎悪と嫌悪がある。
「全部アイツが仕組んだことだ!
魔物と組んで商売敵を殺し、
値段を釣り上げて儲けてやがったんだ!」
商人は信じられないというように、
真っ青な顔で声の主を探した。
そこにいたのは、
昨夜一人で逃げ去った、
護衛の若者だった。
「もうたくさんだ!
アイツはまた、
みんなを食い物にしようとやってきたんだ!
騙されるな!
アイツはこの国の人間じゃないから、
この国の人がどれだけ苦しんでも平気なんだ!」
町人たちがゆっくりと、
商人に向かって歩き出す。
商人は一歩あとずさり、
そして人々に背を向けて走り出した。
それを合図に、
人々は商人の許へと殺到する。
商人は追いつかれ、
地面に引き倒され、
広場まで引きずられていく。
その様子を見ながら、
護衛だった若者はかすかに微笑む。
「種は芽吹いた。
あとは勝手に育っていくだろうよ」
その口元には、
人のものではありえない大きな牙が覗く。
狂気に囚われた人々の蛮行を背に、
若者はひっそりとその場から姿を消した。




