素顔
抜き身の剣を持ち、
近づいてくる少年に、
詐欺師は声を掛け、
「よう、
ごくろう、さん……」
少年のまとう禍々しい雰囲気に眉をひそめた。
二人に合流すべく現れた踊り子と令嬢も、
張り詰めた空気に足を止める。
無言で商人の方へと向かう少年の前に、
詐欺師は立ちはだかった。
「どいてくれ」
少年は静かに言う。
詐欺師は首を横に振ると、
「ダメだ」
真剣な表情で少年を見つめた。
少年の顔に苛立ちが浮かぶ。
「こいつは、
魔物と手を組んで人を騙したんだ!
自分自身の欲のために!」
商人は体をビクッと震わせ、
両手で顔を覆った。
「それは奴が死ぬ理由にはなっても、
お前さんが奴を殺す理由にはならねぇよ」
少年は怒りを込めて詐欺師を睨む。
「報いを受けさせるべきだ!」
「お前さんがやることじゃあない」
「この男の私欲が、
どれだけの人を苦しめたと思ってるんだ!」
「お前さんが苦しめられたわけじゃない。
お前さんに、苦しめられた人間を代表する権利はない」
詐欺師は冷静に、
諭すように少年に語り掛ける。
少年は奥歯を噛み締め、
俯き、首を振ると、
敵意を以て詐欺師を見上げた。
「そこを、どけ」
詐欺師はやはり首を振り、
同じ言葉を繰り返す。
「ダメだ」
「どけと」
少年は剣を振り上げ、
「言っているんだ!」
詐欺師に向かって振り下ろした。
詐欺師は、動かない。
少年の剣が詐欺師の左肩を抉った。
「!」
鎖骨の砕ける鈍い音が響き、
詐欺師の左腕がだらりと下がる。
傷口からは血が溢れ、
詐欺師の半身を赤く染めていく。
「どうして避けないんだ!」
目を見開き、
剣を投げ捨てて、
蒼白な顔で少年が叫ぶ。
「避けちまったら伝わらねぇだろう」
詐欺師の顔にじっとりと脂汗が浮かぶ。
「はやく手当てを!」
うろたえる少年の手首を、
詐欺師の右手が掴む。
「正義を理由に人を殺すな。
必ず後悔する時が来る。
それを後悔しない人間に、
お前はなっちゃいけないんだ」
詐欺師が手首を握る手に力を込める。
それは、
いつも薄笑いを張り付けて本心を見せない詐欺師が、
少年に初めて見せた素顔だった。
「わかった、
わかったから!」
少年は今にも泣きそうな、
とても幼い顔をしていた。
詐欺師はふっと柔らかく微笑み、
少年に体を預けて気を失った。




